一 小学校教諭が三月二五日に学校長に退職願を提出したが、同日夜撤回を決意し、翌二六日学校長に対し撤回方の尽力を依頼し、翌二七日市教育委員会学校教育課長に撤回を申し入れ、さらに、翌二八日に県教育委員会委員長に対し、退職願取消の申入と題する自己名義の文書に押印し発送した場合は、年度末教員の大異動が差し迫つていたからといつて、右退職願の撤回が信義に反するものとはいえない。 二 退職願が撤回された後にした依願免職処分は違法であるが無効ではない。
一 小学校教諭の退職願の撤回が信義に反しないとされた事例 二 退職願が撤回された後に行なつた依願免職処分の効力
地方公務員法27条2項
判旨
公務員の免職処分における退職願は、処分の成立前であれば原則として自由に撤回できるが、撤回が信義則に反すると認められる特段の事情がある場合にはその効力は制限される。
問題の所在(論点)
公務員による退職願(公法上の行為)の撤回の可否、および信義則による撤回制限の成否。また、同意を欠く免職処分の効力(無効か取消しか)が問題となる。
規範
免職処分が有効に成立する以前においては、私人は提出した退職願を原則として自由に撤回することができる。ただし、当該撤回を認めることが信義に反すると認められるような特段の事情、すなわち個人の恣意によって行政秩序が犠牲に供され、事務的に重大な混乱を招くなどの事情がある場合には、その撤回は許されない。また、同意を欠く依願免職処分は違法であるが、その違法が重大かつ明白でない限り、当然無効ではなく取消事由にとどまる。
重要事実
小学校教諭である被上告人は、昭和33年3月25日に退職願を校長へ提出したが、同日夜に撤回を決意した。翌26日に校長へ撤回の尽力を依頼し、27日には教育委員会課長へ撤回を申し入れた。さらに28日には教育委員長宛に退職願取消の文書を発送した。しかし、教育委員会は同年3月31日付で免職処分を行った。その後、被上告人は退職辞令を受領し、PTAの記念品を受け取るなどの行事に応じたが、後に本件処分の無効確認および取消しを求めて提訴した。
事件番号: 昭和37(オ)701 / 裁判年月日: 昭和38年11月26日 / 結論: その他
町の支所長が、町長の都合に基づく強引な勧告に応じて退職願を提出したが、即日撤回を決意し、翌日町長に宛てた退職願を取り消すとの書面を町役場に送付した場合は、その間、町長において辞令書を郵便に付し、また後任の事務取扱者を任命した事実があつても、当時の客観的情勢としては急速に後任者の発令をする必要が認められなかつたことをも勘…
あてはめ
被上告人は退職願提出の当日夜に撤回を決意し、翌日から直ちに校長や教育委員会に対して具体的かつ継続的な撤回意思の表示を行っている。上告人への到達が多少遅延したとしても、被上告人自身の行為に信義に反する点は認められない。また、本件撤回を認めることで事務的な多少の混乱は予想されるものの、年度末の人事異動に致命的な支障を来し、新年度の授業開始が不可能になるような事態が生ずるとは認められないため、信義則に反する特段の事情はない。したがって、同意を欠く本件免職処分は違法である。もっとも、撤回の信義則違反の有無の判断は必ずしも一義的に明白とはいえないため、本件処分の違法は重大かつ明白とはいえず、取消事由にとどまる。
結論
本件免職処分は違法であり、取り消されるべきである。原判決が無効と判断した点は誤りであるが、予備的請求である取消請求は認められるため、処分を取り消した第一審判決を維持する。
実務上の射程
公法上の意思表示の撤回時期を「処分成立前」としたリーディングケースである。答案上は、依願免職の同意の欠缺を論じる際、原則として自由撤回を認めつつ、信義則(特段の事情)による例外を検討する枠組みとして用いる。また、違法の重大明白性の判断基準を示す際にも有用である。
事件番号: 昭和39(行ツ)64 / 裁判年月日: 昭和40年12月10日 / 結論: 棄却
公務員を分限免職にするかどうかは、行政庁の自由裁量に属する。
事件番号: 昭和34(オ)1215 / 裁判年月日: 昭和36年3月3日 / 結論: 棄却
農地所有権が登記簿上の住所から転居した際、郵便局にその旨届出をしておいたため、買収令書の交付に代る公告が行われた昭和二四年三月三一日当時においては、登記簿上の旧住所あての郵便物は転送されすべて新住所で受領されており、買収計画に関する同年二月二一日附の県農地委員会の訴願裁決書(あて先は、いつたん旧住所を記載の上新住所に訂…