賃貸土地三一〇坪六合五勺のうち無断転貸された部分が三〇坪にすぎない場合でも、賃貸土地が道路に沿つた海岸の波打際に存する砂地で、右三〇坪および賃借人所有建物の敷地一二坪を除いた残余の部分がとりたてていう程の用途に供されていないときは、賃貸人は右無断転貸を理由として賃貸土地全部につき賃貸借契約を解除し得るものと解すべきである。
賃借地の一部の無断転貸を理由とする全部解除が有効と認められた事例。
民法612条
判旨
賃借人が承諾なく土地の一部を第三者に占有使用させた場合、その面積が全体に比して僅かであっても、残余の部分に特段の用途がない等の事情があれば、賃貸借契約の全部解除は権利の濫用に当たらない。
問題の所在(論点)
賃借人が賃借土地の一部を無断で第三者に使用させた場合において、その面積が全体に比して僅少であることを理由に、土地全部の賃貸借契約の解除を制限(権利の濫用)すべきか。民法612条2項に基づく解除権の行使範囲が問題となる。
規範
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の一部を占有使用させた場合において、当該部分の面積が全体に比して僅少であっても、土地の利用状況や残余部分の用途等の諸事情を総合考慮し、賃貸借の継続を基礎付ける信頼関係が破壊されたと認められるときは、賃貸借契約全部の解除が認められ、その解除権の行使は権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。
重要事実
上告人は、被上告人から約310坪の土地を借り受けていたが、そのうち合計30坪(全体の約10分の1弱)を賃貸人の承諾なく第三者2名に対し、建物敷地として占有使用させた。当該土地は海岸の波打ち際に位置する砂地であり、無断で使用させた部分および上告人の建物敷地(12坪)を除いた残余の部分については、特段の用途に使用されていなかった。
事件番号: 昭和34(オ)386 / 裁判年月日: 昭和36年8月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借地の一部の無断転貸であっても、背信的行為と認めるに足りない特段の事情がない限り、賃貸借契約全部を解除し得る。また、建物買取請求権は転貸人には認められない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)から借り受けていた賃借地の一部を、被上告人の承諾を得ることなく第三者に無断で転貸し…
あてはめ
本件では、無断で占有使用させた面積は30坪であり、全体(310坪)の10分の1弱にすぎない。しかし、本件土地は海岸の砂地であり、無断使用部分と賃借人自身の建物敷地を除いた残余の部分は、とり立てて言うほどの用途に使用されていない。このような事実関係の下では、無断使用部分の面積が僅かであっても、賃貸人の承諾がない以上、契約の信頼関係を破壊するに足りる態様といえ、土地全部についての解除を認めるのが相当である。したがって、解除権の行使が権利の濫用に当たるとはいえない。
結論
土地全部の賃貸借契約の解除は有効であり、解除権の行使が権利の濫用に当たるとする上告人の主張は認められない。
実務上の射程
一部の無断転貸・譲渡であっても、残余部分の利用可能性や賃貸人の不利益を考慮し、契約全部の解除を肯定する射程を有する。解除権行使が「権利の濫用」や「信頼関係破壊の法理」によって制限されるか否かの判断において、単なる面積比だけでなく、土地の客観的状況や用途を重視すべきことを示唆している。
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
事件番号: 昭和42(オ)440 / 裁判年月日: 昭和42年10月6日 / 結論: 棄却
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に転貸した土地が賃借土地の約一二分の一の部分にすぎない場合にも、特段の事情のないかぎり、賃貸人は右転貸を理由として賃貸借契約全部を解除することができる。
事件番号: 昭和36(オ)1346 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 棄却
賃借土地の三分の一にすぎない土地を無断転貸しても、特別の事由のないかぎり、賃借地全部について契約解除ができる。
事件番号: 昭和39(オ)306 / 裁判年月日: 昭和40年6月4日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約の当事者間において、賃借地上の建物が第三者の所有に帰したときは賃借権は当然に消滅する旨の特約がなされた場合であつても、賃借人が第三者に譲渡した建物の敷地部分が借地全体からみて少部分であり、しかも、元来その余の部分とは別々の時期に別々に賃借され、従来から明確に区分されて使用されている等原判示の事情(原判決理…