家屋の階下部分(床面積約五坪)が使用貸借の当初より店舗として使用し得る構造を有し、階上部分とは別個に店舗の用に供することが相当な利用方法といい得る場合に、右家屋の所有者が使用貸借の解約後店舗部分のみの無断転借人に対して請求する損害金を算定するにあたり、いわゆる公定賃料をこえる約定転貸賃料を標準としても違法ではない。
店舗部分のみの不法占有による損害金算定の標準。
民法709条,地代家賃統制令23条
判旨
建物の階下部分が店舗として使用可能な構造を有し、独立して店舗の用に供することが相当な利用方法である場合には、地代家賃統制令の適用を受けない。また、不法占有に伴う損害賠償額の算定において、鑑定を経ずとも約定賃料額を標準として算定することは適法である。
問題の所在(論点)
1. 建物の一部が独立した店舗として地代家賃統制令の適用外となるための要件。 2. 建物賃貸借終了後の不法占拠に基づく損害金算定において、鑑定を行わず約定賃料額を基準とすることの是非。
規範
建物の物理的構造および利用の実態に照らし、特定の階下部分が独立して店舗として使用可能な構造を有し、かつその独立した利用が相当であると認められる場合には、法令上の賃料統制の対象外となる。また、不法占拠による損害額の算定については、必ずしも専門家による鑑定を要せず、当事者間の合意による約定賃料額を指標として算出することも裁判所の裁量の範囲内として許容される。
重要事実
被上告人は、昭和20年にDに対し本件家屋を貸与したが、その階下部分(床面積約5坪)は当初から店舗として使用しうる構造であった。Dはこれを料理業として使用し、その後、上告人もゴム用品販売業の店舗として使用していた。被上告人は上告人に対し、不法占有に基づく損害賠償を請求した。原審は、当該階下部分は独立した店舗として利用可能であり、地代家賃統制令の適用を受けないとした上で、損害額をDとの間の約定賃料額を基準に算定した。これに対し上告人が、鑑定を経ない算定の違法等を理由に上告した事案である。
あてはめ
本件家屋の階下部分は、貸与当初から一貫して店舗として使用可能な構造を有しており、実際に料理業や販売業といった店舗として利用されていた実態がある。したがって、階下部分を階上部分と切り離して独立した店舗の用に供することは相当な利用方法といえる。このような事実関係の下では、地代家賃統制令の適用はない。また、損害額の算定については、裁判所が事実関係を認定した上で、既存の約定賃料という客観的な指標を基準に判断しており、鑑定を欠いているからといって直ちに不当とはいえない。
結論
本件階下部分は地代家賃統制令の適用を受けず、損害賠償額を約定賃料額に基づいて算定した原判決は正当であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
不法占有に基づく損害賠償(賃料相当損害金)の算定において、裁判所は鑑定に拘束されず、従前の賃料額を基準とする合理的裁量を有することを示す実務上の指針となる。また、建物の一部が統制法令の適用外となるための「構造上の独立性」と「利用形態の相当性」を判断する際の具体例として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)752 / 裁判年月日: 昭和33年2月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法占有による損害賠償額の算定において、当事者間に争いのない適正賃料額を基準とすることは、特段の事情がない限り正当である。 第1 事案の概要:上告人が本件家屋を不法に占有したとして、損害賠償を求められた事案。原審において、本件家屋の適正賃料が月額1,041円以上であることについては当事者間に争いが…