一 およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指すものと解するを相当とする。 二 大学の学生が大学附属の寄宿舎で起臥し、実家からの距離が遠く通学が不可能ないし困難なため、多数の応募学生のうちから厳選のうえ入寮を許され、最も長期の者は四年間最も短期の者でも一年間在寮の予定の下に右寮に居住し名簿調製期日までに最も長期の者は約三年、最も短期の者でも五ケ月間を経過しており、休暇に際してはその全期間またはその一部を郷里またはそれ以外の親戚の許に帰省するけれども、配偶者があるわけでもなく、また、管理すべき財産を持つているわけでもないので、従つて休暇以外は、しばしば実家に帰る必要もなく、またその事実もなく、主食の配給も特別の場合を除いては寄宿舎所在村で受けており、住民登録法による登録も本件名簿調製期日には概ね同村でなされており、登録されていない者も故意に登録の手続をとらなかつたのでない場合はそれらの者については、選挙人名簿調製期日まで三箇月間は同村内に住所があつたものと解するを相当とする。
一 法令における住所の意義 二 修学のため寄宿舎で生活している学生の選挙人名簿登録の要件としての住所認定の一事例
公職選挙法20条,民法21条
判旨
公職選挙法上の「住所」とは、反対の解釈をなすべき特段の事由がない限り、各人の「生活の本拠」を指す。大学の学生であっても、寮での居住実態や生活の態様を総合的に考慮し、そこが生活の本拠と認められる場合には、当該寮の所在地に住所があるものと解される。
問題の所在(論点)
公職選挙法9条及び20条に規定する「住所」の意義、および大学の学生寮に居住する学生の「生活の本拠」が寮の所在地にあるといえるか。
規範
法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の「生活の本拠」を指すものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和29(オ)808 / 裁判年月日: 昭和30年5月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法及び地方自治法上の「住所」とは、生活の本拠すなわちその者の生活に最も密接な関係を有する場所を指し、客観的な居住の実態や生活関係の諸事情を総合して判断される。 第1 事案の概要:被上告人はa村内の自宅を使用して起居し、村内の金融機関出張所長を務め、相当の不動産を所有して自作農も行っていた。…
重要事実
大学の学生である被上告人ら47名は、a村内にある大学附属の学生寮に入寮し、そこで起臥していた。彼らは通学困難等の理由から厳選されて入寮し、1年から4年間の在寮予定の下、名簿調製期日までに5ヶ月から3年間居住していた。休暇中の帰省はあるが、配偶者や管理すべき財産はなく、日常の主食配給もa村で受け、住民登録も(一部を除き)同村でなされていた。選挙管理委員会は、学生らの住所がa村にあることを否定する決定をしたため、その取り消しを求めて提訴された。
あてはめ
被上告人らは、長期間の在寮予定の下で相当期間継続して寮に居住しており、単なる一時的な滞在ではない。休暇以外の日常生活において実家に帰る必要性や事実は乏しく、食糧配給等の生活基盤もa村に置かれている。また、学資の出所が実家であっても、そのことのみで住所の認定が左右されるものではない。さらに、病院等の療養施設と異なり、学生は原居住地への復帰の蓋然性が高いとはいえず、寮を生活の本拠と解することに支障はない。したがって、被上告人らはa村の住民としての実態を備えているといえる。
結論
被上告人らの住所はa村にあると認められる。したがって、彼らをa村の選挙人名簿に登録すべきとした原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
選挙権の行使のみならず、民法上の住所や地方自治法上の住民の定義においても、本判決が示した「生活の本拠」という判断基準は広く妥当する。実務上、学生や単身赴任者の住所認定において、客観的な居住の事実と主観的な居住の意思(滞在期間の予定等)を総合して判断する際のリーディングケースとして活用される。
事件番号: 昭和34(オ)299 / 裁判年月日: 昭和35年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法上の住所の意義に関し、生活の本拠をもって住所と定めるべきであり、特定の時点において当該地に住所を有していたか否かは、客観的な事実関係に基づいて判断される。 第1 事案の概要:上告人は、昭和22年9月4日当時、a町に住所を有していたと主張したが、原審は事実関係に基づき、当時の上告人の生活実態がa…
事件番号: 昭和58(行ツ)32 / 裁判年月日: 昭和58年12月1日 / 結論: 棄却
住民基本台帳法二二条の規定による転入の届出をして引き続き三か月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者であつても、現実に当該市町村の区域内に住所を移して引き続き三か月以上右区域内に住所を有していないときは、当該市町村の選挙人名簿の被登録資格を取得しない。
事件番号: 昭和27(オ)1065 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙権の要件たる「住所」の移転について、生活の実態に基づいて判断すべきであり、特定の選挙期日までに旧住所地から新住所地へ拠点を移した事実が認められる場合には、住所の移転が認められる。 第1 事案の概要:岐阜県議会議員選挙において、原審参加人Cの選挙権の有無が争点となった。Cは昭和26年4月30日の…
事件番号: 昭和23(オ)97 / 裁判年月日: 昭和24年4月28日 / 結論: 破棄差戻
都市に居住していた者が、空襲の激化に伴い徒歩及び汽車約一時間の地域に疎開転出し、終戦後再びその都市を職業生活の中心と定め、寝食の器具を移し、その都市に起居するに至つた場合は同市に転入手続をせず、配給物資を受けず、疎開先の選挙人名簿に登載され、家族は疎開先に居住していても、特別の事情がない限り、その時に住所を同市に移した…