都市に居住していた者が、空襲の激化に伴い徒歩及び汽車約一時間の地域に疎開転出し、終戦後再びその都市を職業生活の中心と定め、寝食の器具を移し、その都市に起居するに至つた場合は同市に転入手続をせず、配給物資を受けず、疎開先の選挙人名簿に登載され、家族は疎開先に居住していても、特別の事情がない限り、その時に住所を同市に移したものと認めるべきである。
戦時中疎開転出した者が終戦後単身帰還した場合の住所
道府県制6条2項,市制14条,市制18条
判旨
戦時中の疎開により住所を移転した者が、終戦後、元の都市に職業上の拠点を戻し、かつ寝食の器具を携えて単身で生活を開始した場合、特段の事情がない限り、その時点をもって生活の本拠(住所)が復旧したと認めるのが相当である。
問題の所在(論点)
疎開先から元の居住地に戻り、単身で職業生活を開始し寝泊まりしている場合、家族全員の合流や公的な届出を待たずに「生活の本拠」が移転したと認められるか。
規範
民法上の住所とは、各人の生活の本拠を指す(民法22条)。疎開のように一時的・応急的な事情で住所を移した者が、終戦後に元の居住地で職業に従事し、生活実態(起居)を開始した場合には、経験則上、生活の本拠を復旧する意思と事実があったと認めるべきである。これを否定するには、客観的な生活実態の変更を覆すに足りる「特段の事情」を要する。
重要事実
原告は空襲激化に伴い甲府市からa村に疎開したが、終戦後、甲府市内で会社役員として勤務を開始した。昭和21年8月28日、会社事務所に隣接する社宅の一室に寝具や什器を運び込み、単身で起居を始めた。その後同年12月に家族全員を呼び寄せ転入手続を完了したが、8月から12月までの間は、週に数回a村の家族のもとに宿泊するにとどまっていた。原審は、定期券の所持や転入手続の遅延を理由に、12月の家族合流時まで住所移転を認めなかった。
事件番号: 昭和27(オ)1065 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙権の要件たる「住所」の移転について、生活の実態に基づいて判断すべきであり、特定の選挙期日までに旧住所地から新住所地へ拠点を移した事実が認められる場合には、住所の移転が認められる。 第1 事案の概要:岐阜県議会議員選挙において、原審参加人Cの選挙権の有無が争点となった。Cは昭和26年4月30日の…
あてはめ
原告は、終戦後に再び甲府市を職業生活の中心と定め、さらに寝食の器具を移して実際に起居を開始している。都市部から疎開した者が終戦後に帰還を希求するのは自然な人情であり、単身での移転であっても生活の実態は甲府市に移っている。原審が指摘する「定期券の所持」「転入手続の未了」「配給を受けない簡易な生活」といった事実は、職業生活と起居の拠点が移ったという客観的事実を否定するに足りる「特段の事情」とはいえない。したがって、昭和21年8月28日の時点で住所は復旧したと解するのが経験則にかなう。
結論
生活の本拠(住所)は、家族の合流や届出の有無にかかわらず、職業生活の拠点形成と起居の事実が備わった昭和21年8月28日に移転したと認められる。これを否定した原判決は経験則違反であり、破棄を免れない。
実務上の射程
住所の認定において「客観的な居住の実体」と「居住の意思」を重視し、届出などの形式的要素や一時的な家族との別居状態よりも、職業上の拠点や実際の起居状況を優先する判断枠組みを示している。住民票の有無に拘泥せず、生活の実態に即して住所を特定する際のリーディングケースとして活用できる。
事件番号: 昭和41(行ツ)55 / 裁判年月日: 昭和41年12月22日 / 結論: 棄却
妻子とともに甲町に居住するが、夫婦で乙市(甲町に隣接)において飲食店を経営し、かつ自身は同市における共産党の党活動に従事している者が、昭和三八年四月初め単身乙市の知人方に同居し、同所に住民登録をし、同所に寝起し、従前どおり飲食店の仕入や党活動を続け、同年九月さらに乙市内で転居し甲町から妻子を呼び寄せて同居するに至つてい…
事件番号: 昭和29(オ)412 / 裁判年月日: 昭和29年10月20日 / 結論: 棄却
一 およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指すものと解するを相当とする。 二 大学の学生が大学附属の寄宿舎で起臥し、実家からの距離が遠く通学が不可能ないし困難なため、多数の応募学生のうちから厳選のうえ入寮を許され、最も長期…
事件番号: 昭和36(オ)10 / 裁判年月日: 昭和36年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の「住所」の認定において、客観的な事実関係により生活の本拠が当該地にないことが明らかに判定できる場合には、本人の主観的意欲を考慮する必要はない。 第1 事案の概要:上告人は、a村に住所を有することを前提に選挙権や被選挙権(公職選挙法9条、10条)を主張したが、原審において客観的な生活実…