石鹸を指定商品とする商標「D」は株式会社E社代理部取扱商品と誤認を生ぜしめるおそれがあり、商標法第二条第一項第一一号にあたる。
石鹸を指定商品とする商標「D」と商標法第二条第一項第一一号
商標法2条1項本文11号
判旨
石鹸のような一般家庭主婦が広く購買・消費する商品については、需要者が商標に注意を払わないという経験則はなく、むしろ出所の混同を生ずるおそれを重視すべきである。ある名称を用いて通信販売等を行う者の事業の知名度が高い場合、他者が同名称を商標として使用することは、たとえ当該者がその名称を直接商品に付していなくても出所の混同を生じさせる。
問題の所在(論点)
一般消費者が購買する石鹸等の雑貨について、需要者は商標に注意を払わないという経験則が認められるか。また、販売主体が商品自体に商標を付していない場合であっても、その名称の知名度により出所の混同が生じ得るといえるか。
規範
商標の類似性や出所の混同の有無を判断するにあたっては、商品の性質、取引の実情、需要者の知識・注意力を具体的に考慮すべきである。特に、一般消費者が日常的に購入する雑貨類において、特定の名称が特定の販売主体(代理部等)の取扱商品として広く認識されている場合には、他者が類似の商標を使用することで商品の出所を誤認させるおそれ(商標法旧2条1項11号、現4条1項15号等参照)があるかを厳格に判断する。
重要事実
雑誌「E」を発行し、かつ「E社代理部」の名称で通信販売や売場経営を行っていたE社は、石鹸を含む多様な生活用品を販売しており、その取扱額は年間約1億2、3千万円に達していた。一方、上告人(原告)は指定商品を石鹸として「D」なる商標を使用しようとした。E社は自ら販売する石鹸に直接「E」の商標を付していたわけではないが、上告人が「D」商標を使用することに対し、E社取扱の商品と誤認されるおそれがあるとして争われた。
事件番号: 昭和29(オ)791 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】引用商標が長期間使用されていない場合であっても、適法な手続によって登録が取り消されていない限り、当該商標と類似する商標の登録を拒絶する根拠となり得る。商標の類似性判断においては、外観・観念等の要素を総合的に考慮して判断される。 第1 事案の概要:上告人は、自らの出願商標が登録第71103号商標(引…
あてはめ
まず、石鹸等の雑貨について「一般需要者は商標に重きを置かない」という経験則は認められない。むしろ、家庭主婦が広く購買する商品においては、誤認混同の危険を一層重視すべきである。本件では、E社が「E社代理部」として多額の販売実績を有し、広く世人に知られている事実がある。たとえE社が取扱商品に直接商標を付していなくとも、その名称の著名性から、上告人が類似の商標を石鹸に使用すれば、需要者は「E社代理部」の取扱商品であると誤認する蓋然性が極めて高いといえる。
結論
石鹸のような一般消費財において、需要者が商標を軽視する事実はなく、既存の著名な販売主体の名称と紛らわしい商標を使用することは出所の混同を招くため、商標権の保護範囲を不当に拡大するものとはいえない。
実務上の射程
混同のおそれの判断において「需要者の注意力の程度」が重要な考慮要素となることを示した。特に、一般消費者が主役となる日用品市場においては、ブランドの識別力が低くなるのではなく、むしろ誤認を避ける必要性が高いことを示唆しており、出所混同の要件を検討する際のあてはめで活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)434 / 裁判年月日: 昭和32年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】商標の特別顕著性は指定商品との関係で相対的に判断されるべきであり、指定外の商品について特別顕著性が認められても登録は認められない。また、拒絶査定において新たな具体例が付加されても、それが拒絶理由の核心(特別顕著性の欠如)を説明するものであれば、改めて通知を要する新たな拒絶理由には当たらない。 第1…
事件番号: 昭和30(オ)433 / 裁判年月日: 昭和32年3月5日 / 結論: 棄却
商標登録出願者が指定した商品について出願商標が特別顕著性を認められない場合は、指定商品のうち一部について永年使用による特別顕著性が認められても、登録を拒絶することは違法でない。
事件番号: 昭和33(オ)766 / 裁判年月日: 昭和35年10月4日 / 結論: 棄却
「シンガーミシン」がその呼称で世界的に著名な裁縫機械として取引されているという取引事情の下では、裁縫機械を指定商品とする商標「シンカ」と「シンガー」とは類似するものと認むべきである。
事件番号: 昭和24(オ)133 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】商標の類否判断において、外観に相違がある場合であっても、構成部分から生ずる称呼及び観念が共通し、取引の実情に照らして商品の出所について混同を生ずるおそれがあるときは、類似の商標と解される。 第1 事案の概要:本件登録商標(「獅子印」等を含む図形商標。以下「本標章」)に対し、他者の商標(「クロライオ…