一 商法第五一四条にいう「商行為ニ因リテ生シタル債務」とは、単に債務者にとり商行為たる行為によつて生じた債務に限らず、債権者にとり商行為たる行為によつて生じた債権をも含むものと解するのが相当である。 二 商行為たる売買契約の合意解除に基く前渡代金返還債務にも、商法第五一四条の適用があるものと解するのが相当である。
一 商法第五一四条にいう「商行為ニ因リテ生シタル債務」の意義 二 商行為たる売買契約の合意解除に基く前渡代金返還債務と商法第五一四条の適用の有無
商法514条
判旨
商法514条の商事法定利率が適用される「商行為によって生じた債務」には、債務者にとってのみならず債権者にとって商行為となる行為から生じた債務も含まれ、商行為である売買契約の解除に伴う不当利得返還債務にも適用される。
問題の所在(論点)
商行為である売買契約が解除されたことに伴う不当利得返還債務(前渡代金返還債務)に、商法514条の商事法定利率が適用されるか。特に、債権者にとってのみ商行為である場合を含むか、および契約解除による返還債務も「商行為によって生じた債務」にあたるかが問題となる。
規範
1. 商法514条にいう「商行為ニ因リテ生ジタル債務」とは、債務者にとって商行為である場合に限らず、債権者にとって商行為となる行為によって生じた債権をも含む。2. 商行為である売買契約が解除された場合、その原状回復義務として生じる前渡代金返還債務についても、同条の商事法定利率が適用される。
重要事実
被上告人(買主・会社)は、上告人(売主)との間で売買契約を締結し、代金の一部を前渡金として支払った。その後、当該売買契約は合意解除されたため、被上告人は上告人に対し、前渡代金の返還を求めて提訴した。この返還債務に適用される法定利率が、民事法定利率(当時の民法404条)か商事法定利率(当時の商法514条)かが争点となった。
あてはめ
本件における売買契約は被上告人会社にとって商行為であり、そこから派生した債権は商行為によって生じたものである。商法514条は、商取引の迅速性や営利性を背景に、一方にとって商行為であれば適用されるべきである。また、売買契約自体が商行為である以上、その解消に伴う原状回復義務も商取引の延長線上の事象として一体的に把握されるべきであるから、「商行為によって生じた債務」に含まれると解される。
結論
商行為である売買契約の解除に基づく前渡代金返還債務には、商法514条が適用され、商事法定利率が認められる。
実務上の射程
契約解除に伴う不当利得返還請求権(民法703条等)の利率を論じる際の必須判例である。改正前商法下の判断であるが、商事法定利率(旧514条)が廃止された現行法下においても、「商行為によって生じた債務」という概念の解釈(一方的商行為の包含や解除による変容後の債務への連続性)は、遅延損害金の計算や消滅時効の起算点等の議論において依然として射程を有し得る。
事件番号: 昭和53(オ)1129 / 裁判年月日: 昭和55年1月24日 / 結論: 棄却
商行為である金銭消費貸借に関し利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権の消滅時効期間は、一〇年と解すべきである。