一 地方公共団体の長の解職請求者名簿に部落民が部落会の決議により署名し、あるいは請求代表者またはその代理人が第三者を同伴して署名を集めたからといつて、それだけでその署名が無効であるとはいえない。 二 署名が詐偽または強迫に基くものであるかどうかについての市町村選挙管理委員会の認定については、裁判所はその当否を判断することができる。 三 署名簿の様式が地方自治法施行規則第一二条、第九条に違反し、有効無効欄、備考欄を欠いていたからといつて、ただそれだけではその署名簿が無効であるとはいえない。
一 地方公共団体の長の解職請求者署名名簿の部落会の決議により部落民のした署名および請求代表者またはその代理人が第三者を同伴して集めた署名の効力 二 署名が詐偽または強迫に基くものであるかどうかの市町村選挙管理委員会の認定と裁判所の権限 三 署名簿の様式に関する軽微な瑕疵と署名簿の効力
地方自治法81条,地方自治法74条の3,地方自治法74条の4第1項,地方自治法74条の2,地方自治法施行規則12条,地方自治法施行規則9条
判旨
条例の制定・改廃等の請求に係る署名に関し、運動従事者が第三者を同伴して署名を集め、事実上心理的影響を及ぼしたとしても、直ちに詐欺や強迫による無効とはいえず、また署名簿の軽微な様式違反も効力に影響しない。加えて、選挙管理委員会による署名の有効・無効の認定は、裁判所の司法審査の対象となる。
問題の所在(論点)
1. 第三者の同伴や集団的決定による署名が詐欺・強迫によるものとして無効となるか。2. 署名簿の様式不備(施行規則違反)は署名を無効にするか。3. 市町村選挙管理委員会による署名の有効・無効の認定について、裁判所の審査権が及ぶか。
規範
1. 署名収集における運動の実施は予定されており、運動従事者は請求代表者やその代理人に限られない。事実上の心理的影響があるだけでは、詐欺又は強迫に基づく署名とは評価されない。2. 署名簿に様式上の不備があっても、それが軽微な瑕疵に留まる場合は署名の効力は妨げられない。3. 選挙管理委員会による署名の有効認定権限は排他的なものではなく、訴訟において裁判所はその認定の当否を判断できる。
事件番号: 昭和28(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和29年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】市町村長解職請求の署名について、請求要旨に多少の事実相違があっても、選挙人が解職の意思を持って署名した以上は詐欺による無効とはならず、また選挙管理委員会の署名有効性の決定は裁判所の司法審査に服する。 第1 事案の概要:上告人(町選挙管理委員会)に対し、町長の解職(リコール)請求がなされ、署名簿が提…
重要事実
地方自治法に基づく署名収集において、部落会の決議に基づき部落民が署名を行い、また請求代表者らが第三者を同伴して署名を集めた。これに対し、これらの署名が心理的影響下になされたものであり、かつ署名簿に地方自治法施行規則所定の様式を備えていない瑕疵があるとして、署名の効力が争われた。さらに、選挙管理委員会の認定は最終的なものであり裁判所は覆せないかが問題となった。
あてはめ
1. 法律は署名収集における運動を予定しており、請求代表者以外の者が関与することも許容される。本件で部落会の決議や第三者の同伴があったとしても、それだけで直ちに強迫等があったとは認められず、有効な署名といえる。2. 本件署名簿に認められる規則違反は、原審の認定によれば「軽微な瑕疵」に過ぎないため、署名の効力を否定するほどのものではない。3. 地方自治法上、署名簿に関する訴訟が認められている以上、裁判所が行政機関である選管の認定の当否を実質的に判断するのは当然である。
結論
本件署名は有効であり、選挙管理委員会の認定に誤りはない。また、当該認定は裁判所の審査に服するものであるが、原判決の判断を覆すべき理由は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
直接請求制度における署名の有効性を判断する際のリーディングケースである。特に「心理的影響」があっても直ちに無効とはならない点や、行政処分の判断に対する裁判所の全面的な審査権を確認した点に実務上の意義がある。答案では、署名の効力を争う場面で、形式的な瑕疵や収集方法の当否を検討する際の規範として引用すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)738 / 裁判年月日: 昭和28年11月20日 / 結論: 棄却
一 直接請求の署名簿の署名捺印を求めることを請求代表者が第三者に委任した場合に、その委任が直ちに市町村選挙管理委員会に届け出られなくても、右委員会の署名の効力審査前にその届出があつたときは、右受任者の集めた署名が地方自治法第七四条の三第一項第一号に違反し無効であるということはできない。 二 地方自治法第七四条の三第二項…
事件番号: 昭和28(オ)1122 / 裁判年月日: 昭和30年9月22日 / 結論: 棄却
地方公共団体の長の解職賛否投票で有効投票の過半数が解職に賛成であつた場合、右投票の効力について争訟の提起がない以上、解雇請求者署名簿の署名の効力に関する訴は、これを維持する利益が失われる。
事件番号: 昭和28(オ)1194 / 裁判年月日: 昭和30年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】普通地方公共団体の長の解職請求における署名の効力は、地方自治法が定める独立の争訟手続によってのみ争うことができ、解職投票の効力を争う訴訟において主張することはできない。また、解職投票において解職賛成が過半数に達し、その効力が確定した後は、署名の効力を争う訴えの利益は消滅する。 第1 事案の概要:上…
事件番号: 昭和28(オ)1420 / 裁判年月日: 昭和30年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】町長解職請求署名簿等の無効確認を求める訴えについて、別の署名簿に基づく解職投票が執行され、その結果が確定して争えなくなった後は、当該訴えを維持する利益は失われる。 第1 事案の概要:1. 原告(上告人)は、町長解職請求(リコール)署名簿の署名を有効とした決定および異議申立却下決定等の無効確認を求め…