売買契約の締結につき、売主に自己の商号の使用を許諾した者は、右売主が売買の合意解除に際し買主に対し手附金を返還することを約した場合、右手附金返還債務につき商法第二三条の規定による責任を免れない。
他人に自己の商号の使用を許諾した者の責任
商法23条
判旨
商号使用を許諾した者が負う商法23条(旧23条)の責任は、名義貸与者が許諾した取引自体から生じた債務のみならず、当該取引が解除された場合の手附金返還債務にも及ぶ。
問題の所在(論点)
商号使用を許諾した名義貸与者が商法23条に基づき責任を負う範囲に関し、当該取引自体から生じた債務だけでなく、その契約が解除された場合の手附金返還債務(原状回復債務)も「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」に含まれるか。
規範
商法23条(名義貸与者の責任)にいう「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」とは、名義貸与を許諾した特定の取引から生じる直接の給付義務のみならず、当該取引が不履行により解除されたことに伴って発生する原状回復義務(不当利得返還債務)等も含まれる。
重要事実
上告人(会社)は、Dが上告人の商号を使用して被上告人と売買契約を締結することを知りながら阻止せず、暗黙に商号使用を許諾していた。その後、Dの債務不履行により当該売買契約は合意解除され、Dは被上告人に対し、受領していた手附金10万円を返還することを約した。被上告人は、上告人に対し、商法23条に基づき右返還債務について連帯責任を追及した。
あてはめ
上告人は、Dが自己の商号を使用して売買契約を締結することを暗黙に許諾しており、名義貸与者の外観を作り出していた。本件の手附金返還債務は、右売買契約がDの不履行によって合意解除されたことに伴い発生したものである。このような解除に基づく返還義務は、名義を貸与して行われた「其ノ取引」に密接に関連し、その取引から派生した債務であると評価できる。
結論
本件手附金返還債務は商法23条の債務に該当するため、上告人はDと連帯して弁済の責を負う。上告を棄却する。
実務上の射程
名義貸与者の責任が契約上の履行義務に限定されず、解除による原状回復義務や損害賠償義務にも及ぶことを示す。司法試験においては、名義貸与の要件(許諾・誤認)充足後の「責任の範囲」の問題として、本判例の論理を用いて範囲を拡張的に論じることが可能である。
事件番号: 昭和36(オ)330 / 裁判年月日: 昭和38年6月7日 / 結論: 破棄差戻
(省略)