一 農地の贈与についての知事の許可は、贈与の成立前になされることを要せず、許可のあつたときから右贈与は効力を生ずるものであり、許可当時贈与者が既に死亡していても、その効力の発生を妨げない。 二 受贈者に対する土地所有権移転登記が、死亡している贈与者名義でなされた場合であつても、右登記が死亡者およびその相続人の意志に反しないものと認められ且つ実体上の権利関係に吻合するものであるときは、相続人は受贈者に対し、その抹消を請求することは許されない。
一 農地贈与の効力と知事の許可 二 死亡した贈与者名義でなされた受贈者に対する土地所有権移転登記と相続人の抹消請求の許否
旧農地調整法4条,旧農地調整法施行令2条1項,不動産登記法26条,不動産登記法36条
判旨
農地等の贈与における知事の許可は効力発生要件であり、許可時に贈与者が死亡していても、生前に契約が成立していれば許可によって贈与の効力は発生し、将来に向かって所有権が移転する。
問題の所在(論点)
贈与契約の成立後、農地法の許可が出る前に贈与者が死亡した場合に、当該贈与の効力が発生するか。また、死亡した者を登記義務者としてなされた登記の有効性が問題となる。
規範
農地調整法(現農地法)に基づく許可は、農地等の権利移転に関する贈与契約の効力発生要件(有効要件)であり、特段の事情がない限り、許可があった時から将来に向かって効力を生じる。契約成立後に贈与者が死亡した場合であっても、許可が得られれば、その効力発生が妨げられることはない。また、既に死亡した者を登記義務者としてなされた所有権移転登記であっても、それが実体的な権利関係と合致し、かつ相続人の意思にも反しない場合には、当該登記は無効とはならない。
重要事実
贈与者Dは昭和24年9月、被上告人に対し本件農地を贈与した。被上告人は栃木県知事に対し農地調整法施行令に基づく許可申請を行い、同年12月に許可を得た。しかし、この許可がなされた時点で贈与者Dは既に死亡していた。その後、被上告人は、死亡したDを登記義務者として所有権移転登記を完了させた。これに対し、Dの相続人である上告人が、贈与は効力を発生していないとして、登記の抹消を求めて提訴した。
あてはめ
本件贈与契約はDの生前に成立しており、農地調整法上の許可は契約の成立要件ではなく、あくまで効力発生のための有効要件である。したがって、許可時にDが死亡していても贈与の効力発生は妨げられない。もっとも、原審が説くような遡及効は認められず、許可の時点から将来に向かって効力が生じる。登記についても、被上告人が上告人から同意書の作成を依頼され、印章を預かるなどの経緯から、本件登記はDおよび相続人である上告人の意思に反しない。実体的な所有権移転と符合する以上、不正無効な登記とはいえない。
結論
許可により贈与の効力が発生し被上告人は所有権を取得した。本件登記は実体関係と符合し有効であるため、上告人の抹消登記請求は認められない。
実務上の射程
農地法3条の許可を停止条件付法律行為の「条件」に近い有効要件と整理する際の基本判例である。また、死者名義の登記であっても、実体関係に合致していれば「物権変動の過程を忠実に反映していない」という点のみをもって無効とはされない(中間省略登記と同様の理)という実務上の処理を支持する射程を持つ。
事件番号: 昭和49(オ)398 / 裁判年月日: 昭和50年9月25日 / 結論: 棄却
時効による農地所有権の取得については、農地法三条の適用はない。
事件番号: 昭和42(オ)560 / 裁判年月日: 昭和43年6月6日 / 結論: 棄却
一、遺贈の承認および放棄に関する規定は死因贈与に準用されない。 二、甲の所有していた不動産について、その相続人でない乙に相続を原因とする所有権移転登記がされ、乙から丙に贈与を原因とする所有権移転登記がされているが、実体上は甲から丙に右不動産が死因贈与され、現在丙がその所有者である場合には、甲の相続人が乙および丙に対し右…
事件番号: 昭和26(オ)113 / 裁判年月日: 昭和27年5月2日 / 結論: 破棄差戻
調停により取得した不動産の二分の一の共有持分権に基く分割請求権があることを原因として提起した共有物分割請求訴訟において、その請求を棄却した確定判決の既判力は、判決の理由において、共有権の存否につき判断をしている場合であつても、右の調停により共有持分権を取得したかどうかの点までは及ばない。
事件番号: 昭和35(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
書面によらない贈与による権利の移転を認める判決が確定した後は、既判力の効果として民法第五五〇条による取消権を行使して右贈与による権利の存否を争うことは許されない。