農地買収計画に対し異義の申立をしないで右計画公告後五箇月を経て直接訴願庁に提起された訴願であつても、訴願庁が宥恕すべき事情があると認めてこれを受理し棄却の裁決をした以上、右裁決は、行政事件訴訟特例法第五条第四項にいう訴願の裁決に当るものと解すべきである。
農地買収計画に対し異議の申立をしないで右計画公告後五箇月を経て直接訴願庁に提起された訴願を棄却する裁決と行政事件訴訟特例法第五条第四項にいう訴願の裁決
自作農創設特別措置法7条,訴願法8条
判旨
行政庁が不適法な訴願等に対し却下せず実体裁決を行った場合、行政部内の最終判断が示された以上、前置手続の瑕疵は治癒され、訴願の裁決を経たものとして出訴が認められる。
問題の所在(論点)
行政訴訟の前置手続(異議申立て・訴願)において、前段階の不備や期間徒過がある訴願に対し、行政庁が実体裁決をした場合に「前置手続を経たもの」として出訴が認められるか。
規範
1. 異議申立てを前置すべき訴願において、適法な異議を経ずに提起された訴願であっても、上級行政庁(訴願庁)がこれを受理して実体裁決を行ったときは、行政部内における上級庁の意思決定を経たものとして、前置手続の瑕疵は治癒される。 2. 訴願期間経過後の提起であっても、行政庁が宥恕すべき事由があると認めて受理・実体裁決をした以上、特段の事情がない限り、適法に宥恕されたものと解すべきである。
重要事実
上告人は、農地買収計画に対し、法定の期間内に町農地委員会へ異議申立てを行わず、公告から5か月以上経過した後に県農地委員会へ訴願を提起した。県農地委員会はこの訴願を不適法として却下せず、内容を審査した上で実体上の裁決を行った。原審は、適法な異議を経ておらず期間も経過しているため、本件裁決は不適法であり、行政事件訴訟特例法5条4項(当時)の「裁決を経た場合」に該当しないとして訴えを却下した。
あてはめ
1. 異議・訴願はいずれも行政部内の救済手続であり、前置手続を要求する趣旨は上級庁の判断を経る点にある。本件では、上級庁たる県農地委員会が受理し実体裁決を行っているため、異議不経由の瑕疵は治癒されたと評価できる。 2. 期間徒過についても、訴願法(当時)上、行政庁には宥恕の裁量がある。県農地委員会が実体裁決をした事実は宥恕の意思を示すものであり、本件の約5か月の遅延を不相当とする特段の事情も認められない。
結論
本件訴願裁決は適法な「裁決」に当たり、前置手続の要件を満たす。したがって、本案判決を拒んだ原判決は法令の解釈を誤っており、破棄・差戻しを免れない。
実務上の射程
行政不服審査法下の現代においても、審査請求期間の徒過や手続不備がある場合に、行政庁があえて実体裁決(棄却裁決)をした際の訴願前置要件充足性を判断する際の指針となる。瑕疵の治癒という理論的根拠として有用である。
事件番号: 昭和27(オ)144 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
行政処分に対する異議申立が法定期間経過後になされた場合、異議決定庁は諸般の事情を考察し宥恕すべき事由があると認めるときは、その裁量によりこれを受理することができる。