相続放棄の申述書には、申述者が自署するのを原則とするが、自署でなければ無効であるということはできない。
相続放棄の申述は、申述者が申述書に自署することを要するか
民法915条,民法938条,家事審判法9条甲類29号,家事審判規則114条
判旨
相続放棄の申述受理は本人の真意に基づくことが必要であるが、申述書に記名押印しかない場合でも、家庭裁判所の調査により真意が認められる限り、その申述は有効である。受理手続に慎重を欠く点があったとしても、真実に放棄の意思がある以上、相続放棄が無効となるわけではない。
問題の所在(論点)
相続放棄の申述書に本人の自署がない場合や、家庭裁判所による本人審問等の確認手続が不十分であった場合に、当該相続放棄の申述が有効か否か。特に、署名押印の要件(旧家事審判規則114条2項)の解釈が問題となる。
規範
相続放棄の申述の受理は、申述が本人の真意に基づくことを要件とする。申述書への署名押印(家事審判規則114条2項)は真意を確認するためのものであるから、原則として自署を要する。もっとも、特段の事情があるときは、記名押印のみであっても、他の調査によって本人の真意が認められる限り、家庭裁判所は申述を受理できる。また、受理手続に不備があっても、実体法上の放棄の意思が認められる限り、直ちに無効とはならない。
重要事実
上告人が家庭裁判所に対し相続放棄の申述を行い、受理された。しかし、後に上告人は、当該申述が本人の自署ではなく、受理に至る家庭裁判所の手続(本人審問の欠如等)にも不備があったとして、相続放棄の無効を主張した。下級審は十分な証拠調べの結果、上告人が真実相続を放棄した事実を認定した。
事件番号: 昭和27(オ)743 / 裁判年月日: 昭和30年9月30日 / 結論: 棄却
一 相続の放棄が無効であることの確認を求める訴は、不適法である。 二 相続の放棄が無効であることの確認を求める請求に対し、被告が、口頭弁論において、原告の請求どおりの判決を求める旨陳述しても、請求の認諾の効力を生ずるものではない。
あてはめ
申述書に記名押印しかない点について、署名押印の規定は真意を明らかにするためのものであるから、他の調査により真意が認められる以上、形式的瑕疵のみで無効とはならない。本件では、下級審において上告人が真実に相続を放棄した事実が認定されている。家庭裁判所が本人審問を行わず受理した点については、慎重を欠くとはいえるものの、申述書自体から真意が認められる限り必ずしも審問は必須ではなく、実体としての放棄の意思が存在する以上、受理された申述が無効となるものではない。
結論
本件相続放棄の申述は有効である。家庭裁判所の受理手続に慎重を欠いた点があっても、本人の真意に基づく放棄であると認められる以上、その効力を否定することはできない。
実務上の射程
相続放棄の受理は形式的審査に留まらず実質的な真意確認を伴うべきだが、受理後の無効主張に対しては、受理手続の瑕疵よりも「実体としての放棄意思の有無」を重視する射程を持つ。申述書の署名・押印要件は、真意確認の手段に過ぎないと解するべきである。
事件番号: 昭和33(オ)1042 / 裁判年月日: 昭和37年5月24日 / 結論: その他
共同相続人の一人が単独相続による所有権全部取得の登記をなした場合、他の共同相続人は、共有名義に変更を求める登記更正手続の請求はできるが、右登記全部の抹消を求めることはできない。
事件番号: 昭和27(オ)1258 / 裁判年月日: 昭和29年2月26日 / 結論: 棄却
親族会の招集期日の変更決定が、三名の会員中一名だけに送達されたため、右期日に他の二名が出席してなした決議も当然無効ではなく、訴により取消を求め得るにすぎない。