民訴第三五条第六号にいわゆる「前審ノ裁判ニ関与シタルトキ」とは、前審の裁判の評決に加わつたときの意であつて、裁判官は、たとえ前審において口頭弁論を指揮し証拠調をした事実があつても、該事件の上訴審において職務の執行から除斥されない。
除斥原因としての「前審ノ裁判ニ関与シタルトキ」の意義
民訴法35条,民訴法395条1項2号,刑訴法20条7号
判旨
民事訴訟法23条1項6号(旧35条6号)にいう「裁判官が事件につき前審の裁判に関与したとき」とは、裁判官が前審の裁判(判決)の評決に関与したことを指し、口頭弁論や証拠調べに関与したにとどまる場合は含まれない。
問題の所在(論点)
裁判官が前審において口頭弁論の指揮や証拠調べを行ったが、最終的な判決の評決には関与していない場合、民事訴訟法23条1項6号(旧35条6号)の「前審の裁判に関与した」に該当し、除斥の対象となるか。
規範
民事訴訟法23条1項6号の「前審の裁判に関与した」とは、裁判官が当該事件の前審において、裁判の結論を出すための「評決」に加わったことを意味する。したがって、前審の審理過程に関与したとしても、最終的な判断の形成に加わっていないのであれば、除斥事由には該当しない。
重要事実
上告人は、原判決(控訴審)に関与した裁判官が、第一審において数回にわたり口頭弁論を指揮し、当事者の陳述や証拠の申し出を聴取し、さらに証人尋問等の証拠調べを実施した事実を指摘した。当該裁判官は、第一審の判決書(評決)には関与していなかったが、上告人はこれが除斥事由に当たると主張して上告した。
あてはめ
本件において、指摘された裁判官は第一審の審理段階で口頭弁論や証拠調べを担当しており、訴訟運営に深く携わっている。しかし、同裁判官は第一審の判決(裁判)の評決そのものには加わっていない。除斥制度の趣旨は、前審で自ら下した判断を上級審で自ら審査することによる予断を排除することにある。評決に加わっていない以上、法律上の「裁判に関与した」とはいえず、控訴審での職務執行が制限される理由はない。
結論
前審の裁判(評決)に関与していない裁判官が上訴審の裁判に関与することは、除斥事由に該当せず適法である。
実務上の射程
裁判官の除斥事由を限定的に解釈する確立した判例である。予断排除の必要性は判決を下した際に最も強まるため、審理に関与しただけでは除斥されない。答案上は、除斥・忌避の論点において、制度の趣旨(審判の公正と裁判への信頼確保)から「裁判」の意味を定義する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)458 / 裁判年月日: 昭和32年6月7日 / 結論: 棄却
前審の証拠調に関与したが裁判自体には関与しない裁判官は職務の執行から除斥されない。