一 憲法第二一条所定の言論、出版その他一切の表現の自由は、公共の福祉に反し得ないばかりでなく、自己の自由意思に基ずく特別な公法関係上又は私法関係上の義務によつて制限を受ける。 二 特別抗告理由は理由書自体に記載すべきであつて、原審抗告理由書の記載を引用することは許されない。
一 憲法第二一条所定の言論出版その他一切の表現の自由に対する制限の可否 二 特別抗告理由として原審抗告理由書の記載を引用することの適否
憲法12条,憲法21条,民訴法419条ノ3
判旨
憲法21条の表現の自由は絶対無制限ではなく、私法上の義務によっても制限を受け得る。企業の信用を害し業務運営を妨げる行為に対し、懲戒規程に基づき解職処分を下すことは、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
従業員が会社を批判する記事を配布した行為に対し、懲戒規程に基づく解雇処分を行うことが、憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害し、違憲とならないか。また、かかる行為が憲法28条の労働基本権によって保護されるか。
規範
憲法21条1項が保障する表現の自由は、公共の福祉による制限を受ける。これには、自己の自由意思に基づく特別な公法関係のみならず、私法上の義務によって受ける制限も含まれる。したがって、従業員の表現行為が企業の適正な懲戒規程に抵触する場合、その規程に基づき民事上の責任を問うことは同条に反しない。
重要事実
会社従業員である抗告人らが、確たる根拠がないにもかかわらず、会社が配置転換において不当な施策を行っている旨の風評を日本共産党の細胞機関紙に掲載し、他の従業員に配布した。会社は、この行為が企業の信用を害し業務運営を妨げたとして、職員懲戒規程に基づき抗告人らを懲戒解職処分とした。
事件番号: 昭和28(ク)79 / 裁判年月日: 昭和29年6月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条1項は国に対し健康で文化的な最低限度の生活を営ませる義務を課すにとどまり、個々の国民に具体的・現実的な権利を付与するものではない。また、憲法21条の表現の自由は、私法関係等に基づく義務により制限を受け得る。 第1 事案の概要:会社側の整理基準に基づき、欠勤・遅参・早退が多い者(基準6該当…
あてはめ
抗告人らの行為は、根拠のない風評を真実であるかのように宣伝するものであり、会社の信用を害し業務運営を妨げる性質を有する。これは、労働契約に基づく誠実義務等の私法上の義務に違反する行為といえる。かかる行為が懲戒規程に該当する場合に処分を受けることは、私法上の義務に基づく合理的な制限であり、憲法21条が右規程の効力を否定するものではない。また、根拠なき風評の流布は正当な団体行動(憲法28条)にも該当しない。
結論
本件懲戒解職処分は憲法21条および28条に違反せず、正当である。
実務上の射程
私企業における表現の自由の限界を示した初期判例。間接適用説を採る三菱樹脂事件以前の判断であるが、「私法上の義務による制限」を認める論理は、就業規則による制約を検討する際の基礎となる。また、労働者の表現行為が「正当な組合活動」から逸脱し、企業の運営を著しく阻害する場合には懲戒対象となり得ることを示唆する。
事件番号: 昭和26(ク)114 / 裁判年月日: 昭和27年4月2日 / 結論: その他
一 報道機関が、その従業員を共産党員またはその支持者たることを理由として解雇した場合には、その解雇は、昭和二五年七月一八日付連合国最高司令官より内閣総理大臣あて書簡による指示に従つたものとして有効である。 二 報道機関が、その従業員を、共産党員またはその支持者たることを理由として解雇した場合には、その解雇の効力に関する…
事件番号: 昭和29(ク)223 / 裁判年月日: 昭和35年4月18日 / 結論: 棄却
一 民事上の法律行為の効力は、特別の規定がないかぎり行為当時の法令に照らし判定すべきものである。 二 昭和二五年七月一八日付連合国最高司令官の内閣総理大臣あて書簡は、公共的報道機関にとどまらずその他の重要産業から共産党員またはその支持者を排除すべきことを要請する連合国最高司令官の指示と解すべきである。