一 外国人登録令施行規則第一九条(昭和二五年九月三〇日政令第二九五号による改正前のもの)に規定する執行者の署名捺印がなくても、これにより退去強制令書の執行の要件は違法とはならない。 二 保釈中退去強制令書により一時拘束したとしても、これをもつてただちに行政権による司法権の侵犯ということはできない。
一 外国人登録令施行規則第一九条の執行者の署名捺印 二 被保釈者を行政権により拘束することの適否
外国人登録令(昭和25年9月30日政令295号による改正前のもの)16条,外国人登録令施行規則(昭和25年9月30日政令295号による改正前のもの)19条,刑訴法89条,刑訴法90条,憲法37条
判旨
不法入国者であっても人間として当然に享有する基本的人権は保障されるが、退去強制令書の執行自体が直ちに人権侵害となるわけではなく、また執行者の署名捺印の欠如は令書執行の有効性を左右しない。
問題の所在(論点)
1. 不法入国者に基本的人権の保障は及ぶか。 2. 退去強制令書に執行者の署名捺印がないことは執行を違法とするか。 3. 保釈中に退去強制のための行政的拘束を行うことは、司法権の侵害にあたるか。
規範
不法入国者であっても、人間であることにより当然に享有する基本的人権は保障される。また、退去強制令書への執行者の署名捺印を求める規定は、責任の所在を明確にして執行の適正を間接的に担保する趣旨にすぎず、執行の要件ではない。さらに、保釈は当該公訴事件の勾留を停止するものであり、他の適法な理由(行政上の退去強制等)に基づく拘束を禁止する効力はない。
重要事実
不法入国を理由として退去強制令書が発付・執行された上告人が、当該執行の違法を主張した事案。上告人は、(1)執行者が令書に署名捺印していないこと、(2)別件の刑事事件で保釈中であったにもかかわらず拘束されたこと、(3)不法入国者には基本的人権がないとした原審の判断が憲法違反であること、を理由に上告した。
あてはめ
1. 人権の享有について:原審は不法入国者に基本的人権がないとしたが、これは「謬論」であり、人身の自由等の基本的人権は不法入国者にも及ぶ。しかし、本件退去強制手続自体は不当な侵害ではない。 2. 令書の形式について:執行者が権限を有し適法に執行した以上、署名捺印の欠如は責任所在を不明にする程度のものであり、執行を違法ならしめる重大な瑕疵とはいえない。 3. 保釈との関係について:保釈の効果は公訴事実による勾留の停止に限られる。行政権が法律上の理由に基づき一時拘束することは、事実上保釈の効果を制限しても司法権の侵犯にはあたらない。
結論
上告棄却。不法入国者にも基本的人権は認められるが、本件退去強制令書の執行手続に違法はなく、保釈中の行政的拘束も適法である。
実務上の射程
憲法上の外国人に対する人権保障の範囲を論じる際の最重要判例の一つである(「マクリーン事件」に先んじる判断)。「人権の性質上、日本国民のみを対象とするものを除き、外国人(不法入国者含む)にも人権が保障される」という論理の基礎となる。答案では、刑事手続上の瑕疵や行政的拘束の適法性を論じる際にも参照可能。
事件番号: 昭和45(ク)441 / 裁判年月日: 昭和46年1月25日 / 結論: 棄却
憲法は外国人の本邦への入国についてなんら規定しておらず、外国人の入国の許否は当該国家の自由裁量によつて決定しうるものとされている国際慣習法に従うことが憲法の理念に反するものではないから(最高裁昭和三二年六月一九日大法廷判決・刑集一一巻六号一六六三頁参照)、上陸許可の証印を受けていない外国人が、上陸審査手続のための待機場…
事件番号: 昭和34(オ)400 / 裁判年月日: 昭和35年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法務大臣による在留特別許可の付与は自由裁量に属し、在留期間経過後の外国人に対する退去強制手続が人道上極めて残虐で公序良俗に反するとは認められない限り、憲法にも違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、在留許可期間が経過した後も日本国内に在留していた外国人である。これに対し当局が退去強制令書を発付し…