戦時補償特別税の納税義務者が何人であつても、戦時補償特別措置法第一四条の申告書が、何人からも提出されなかつた場合に、銀行が、特殊預金の全額について戦時補償特別税を徴収し、国に納付しても、国が不当に利得したものとはいえない。
戦時補償特別措置法第一四条の申告書の不提出の場合の特殊預金全額徴収と国の不当利得
戦時補償特別措置法8条,戦時補償特別措置法10条3項,戦時補償特別措置法11条,戦時補償特別措置法14条1項,戦時補償特別措置法19条2項,民法703条
判旨
戦時補償特別税において、申告を要件とする課税価格の控除を受けなかったことにより、預金全額が徴収されたとしても、申告期限の徒過により控除を受ける権利が失われた以上、国が徴収したことは「法律上の原因」を欠くものとはいえず、不当利得返還請求は認められない。
問題の所在(論点)
申告書の提出を条件とする税額控除が行われず、全額が徴収された場合において、国が当該税収を得ることに「法律上の原因」があるか。また、他人の名義で預金されていることが申告を怠ったことの正当な理由になるか。
規範
民法703条の不当利得における「法律上の原因」の有無は、利得を保持する正当な根拠が法規上存在するか否かにより判断される。租税法において一定の控除を受けるための要件として申告書の提出が法律上規定されている場合、その申告がない限り控除を受ける権利は発生せず、国が全額を徴収することは適法な権利行使にあたる。
重要事実
上告人は、D銀行のF名義の預金が実質的に自己の預金であると主張し、国がFを納税義務者として戦時補償特別税(税率100%)を全額徴収したことは不当利得にあたると主張した。戦時補償特別措置法上、個人であれば5万円の控除が認められる規定があったが、そのためには所定の申告期限内に申告書を提出する必要があった(同法14条)。本件では、名義人Fも、真実の権利者と称する上告人も、期限内に申告書を提出していなかった。
あてはめ
戦時補償特別措置法11条は、申告がない場合に控除規定を適用しない旨を明文で定めている。本件では、上告人およびFが申告期限内に申告書を提出しなかった事実に争いがないため、申告期限の到来とともに、納税義務者が誰であるかにかかわらず、控除を受ける権利は喪失したといえる。上告人は預金がF名義であったため申告不能であったと主張するが、実質的な預金者として自ら納税義務者であると主張するのであれば、自らの名で申告を行うことは可能であったと解される。したがって、銀行が控除なしに全額を徴収して国に納付したことは、同法19条2項に基づく適法な徴収であり、国には利得を保持する法律上の原因がある。
結論
国による徴収に法律上の原因がないとはいえず、上告人の不当利得返還請求は認められない。
実務上の射程
租税法上の優遇措置や控除が申告を要件としている場合、その不作為によって生じた不利益は納税者が負うべきであり、後から実質的権利関係を主張して不当利得返還を求めることは困難であることを示している。行政上の手続規定(期間制限や申告要件)の遵守が、実体法上の利得の正当性を基礎付けるという枠組みで活用できる。
事件番号: 昭和24(オ)76 / 裁判年月日: 昭和25年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原審の証拠取捨や事実認定の当否を争うものである場合、それは原審の職権に属する事項を論難するものであり、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決における証拠の取捨、判断および事実の認定に不服があるとして上告を申し立てたが、具体的な憲法違反や判例違反等の適法な上告事…