一 上告理由は、訴訟記録が焼失した場合でも、原判決の法令違背を具体的に主張することを要する。 二 民訴第三九四条は、憲法第三二条に違反しない。
一 訴訟記録焼失の場合と上告理由の具体的主張の要否 二 民訴第三九四条の合憲性
民訴法394条,民訴法398条,民訴法402条,憲法32条
判旨
訴訟記録が焼失した場合であっても、上告理由の制限を定める規定は適用され、法令違背の具体的立証が必要である。この運用により実質的に上告が困難になっても、直ちに憲法32条に反するとはいえない。
問題の所在(論点)
訴訟記録が焼失した特殊な状況下において、上告理由の制限を定める民事訴訟法の規定を適用することが許されるか。また、その適用によって上告が実質的に困難になることが憲法32条(裁判を受ける権利)に違反するか。
規範
上告は原判決の法令違背を理由とする場合に限り許容される(旧民訴法394条等)。この原則は、訴訟記録が現存する通常の場合のみならず、訴訟記録が焼失した場合であっても等しく適用される。上告人は、上告理由書等において原判決の法令違背を具体的に主張・立証する義務を負い、裁判所はその理由の有無に基づき調査を行う。記録焼失により理由の発見が困難となり、実質的に上告が阻止される結果を招くとしても、それは立法上の当不当の問題に留まり、当該規定を直ちに憲法32条違反と解することはできない。
重要事実
抗告人は、訴訟記録が焼失した事案について、記録が現存しない以上は旧民訴法394条(上告理由を法令違背等に限定する規定)を適用すべきではないと主張した。仮に同条を適用し、法令違背の具体的主張を要求するならば、裁判を受ける権利を保障した憲法32条に違反する違憲の規定であるとして、特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和24新(つ)5 / 裁判年月日: 昭和24年9月7日 / 結論: 棄却
公判期日において刑訴法第一四六條により証言を拒んだ証人並びに供述をした証人の檢察官に対する各供述録取書及び被告人の司法警察職員に対する供述録取書を、檢察官が証拠として提出したのに対して、弁護人から証人の右供述録取書は同法第三二一條第一項第二号に定める要件を備えていないものであり、被告人の右供述録取書は同法第三二二條によ…
あてはめ
上告制度の本質は、原判決の法令違背の有無を審査する点にあり、その調査範囲は上告理由に基づき画定される。本件においても、記録焼失という事由があるからといって、上告理由における具体的立証の必要性が免除されるわけではない。抗告人は破棄に足る具体的な主張を行っていないため、法令の規定通り棄却せざるを得ない。記録焼失による不利益は立法政策上の問題であり、憲法違反とは認められない。
結論
本件に旧民訴法394条を適用した原決定は適法である。訴訟記録の焼失にかかわらず上告理由の具体的提示は必要であり、同条は憲法32条に違反しない。
実務上の射程
訴訟記録の滅失という不可抗力的な事態においても、現行法の枠組み(上告理由の制限や具体的記載義務)が維持されることを示した。手続保障の観点からは厳格な判断であり、実務上は代替資料等により可能な限り具体的な不服理由を構成する必要があることを示唆している。憲法判断としては、制度の不備が直ちに違憲とはならないという消極的な立場を採っている。
事件番号: 昭和28(し)10 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条の裁判を受ける権利の侵害を主張しても、その実質が単なる訴訟法違反の主張にすぎない場合は、刑訴法405条の特別抗告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対し、憲法32条(裁判を受ける権利)の違反を理由として特別抗告を申し立てた事案。しかし、その主張の具体的な内容は、原審の…
事件番号: 昭和24新(つ)3 / 裁判年月日: 昭和24年9月7日 / 結論: 棄却
原審が、被告人と共犯関係にある証人の檢察官に対する供述録取書を証拠として受理したことに対する異議申立を却下した決定に対して、右録取書は、憲法第三八條第一項に違反し予め供述を拒み得ることを告げないで作成されたものであるから、これを証拠として受理することも違憲であると主張することは、刑事訴訟手続のみに関する主張に帰し、特別…
事件番号: 昭和24新(つ)11 / 裁判年月日: 昭和25年3月27日 / 結論: 棄却
辯護人が「訴訟の途中に於て本件公訴の提起が合憲性を有するや否やに付重大なる疑問を生じた」からといつて公訴棄却の申立をしても裁判所が事案を審理するに當り、これに關する辯護人の申立を却下するに際し、公訴提起の憲法適否につき理由を示さなければならぬことは憲法上も訴訟法上も要請されてはないのである。