一 甲証人尋問のため指定された期日に、別に期日外に申請されていた乙証人がたまたま在廷していたために、甲証人尋問に引き続いてその取調をした場合においても、当事者がその尋問について異議を述べなかつたときは、その証拠申請について特に意見を述べる機会が与えられていなくても、乙証人の証言を証拠とすることは差支えない。 二 本人尋問を申し出た当事者が、その尋問未済のまま口頭弁論終結に際して「他に主張立証はない」と述べたときは、その申出を放棄したものと認むべきである。 三 地方裁判所は、合議体で、裁判所法第二六条第二項一号の決定を変更して、一人の裁判官で事件を取り扱わしめる旨の決定をすることができる。 四 裁判所法第二六条第二項第一項の決定及びその変更決定は、口頭弁論調書若しくは合議体の裁判官全員の署名押印又は少くとも押印をもつて、記録上明白にして置くべきである。 五 合議体の審理が単独裁判官の審理に移行した場合において、その合議体の構成員が単独裁判官として引き続き審理をするときは、口頭弁論の更新を要しない。 六 家屋使用の対価としてその家屋の留守管理をする旨の契約は、賃貸借契約とはいえない。
一 責問権喪失の事例 二 証拠申出の放棄と認められる事例 三 裁判所法第二六条第二項第一号の決定を変更する決定の適否 四 裁判所法第二六条第二項第一号の決定及びその変更決定の方式 五 合議体の審理が単独裁判官の審理に移行した場合と口頭弁論更新の要否 六 労務の提供と賃貸借契約の成否
民訴法141条,民訴法258条,民訴法144条,民訴法207条,民訴法187条2項,裁判所法26条2項1号,民法601条
判旨
地方裁判所の単独審理への移行を決定する変更決定は無方式で足り、調書等の記載からその旨を窺知できれば適法である。また、家屋の管理等の労務提供を対価とする使用合意は、法律上の賃貸借には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 合議体から単独制へ移行する際の決定に厳格な方式が必要か(構成の違法)。 2. 家屋の管理・留守番といった労務の提供を対価とする使用関係が、賃貸借契約として法的保護を受けるか。
規範
1. 地方裁判所の審理を合議制から単独制へ変更する決定(裁判所法26条2項1号)は、原則として記録上明確にすべきであるが、本質的には無方式の決定であり、記録上かかる決定があったことを窺知できれば足りる。 2. 借家法(当時)の適用対象となる賃貸借契約が成立するためには、法律上の対価としての「賃料」の支払が必要であり、単なる事務の手伝い等の労務提供は、特段の事情のない限りこれに当たらない。
重要事実
第一審(東京地裁)において、当初合議体で審理されていた事件が、途中の口頭弁論期日で裁判官から「単独裁判官で審理する旨の決定を告知する」との告知がなされ、以降は単独裁判官によって審理・判決がなされた。また、被告(上告人)は、本件家屋の占有権原として、家主(被上告人)の留守管理等の事務を手伝う代わりに無償で借り受けたものであり、実質的には賃貸借であると主張して借家法の適用を求めた。
あてはめ
1. 口頭弁論調書に「単独裁判官で審理する旨の決定を告知する」との記載がある以上、合議体による従前の決定を単独制へ変更する決定があったと窺知できる。したがって、裁判所の構成に違法はない。 2. 被告が主張する「事務の手伝いによって賃料に充てる」という関係は、法律上の賃料支払とは認められない。このような労務提供の約束に基づき無償で使用させる関係は賃貸借(または転貸借)とは解されず、借家法の適用を認める余地はない。よって、基本となる賃貸借が解除された以上、被告は正当な占有権原を主張できない。
結論
第一審の裁判手続に構成の違法はなく、また労務提供を対価とする占有は賃貸借に当たらないため、上告を棄却する。
実務上の射程
裁判所法に基づく単独・合議の構成変更に関する手続的瑕疵の主張を封じる際の根拠となる。また、民法上の賃貸借における「賃料」の意義について、単なる好意的な労務提供との区別を論じる際の参考となる。
事件番号: 昭和24(オ)301 / 裁判年月日: 昭和26年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の一部を目的とする賃貸借契約は、当事者の合意がある限り有効に成立し、その範囲外の占有には賃借権の対抗力が及ばない。 第1 事案の概要:被上告人(所有者)が、上告人に対し、本件建物内の工場部分を不法に占拠しているとして所有権に基づく明渡しを求めた事案。上告人と建物前所有者の間には建物の一部の賃貸…