一 戦時罹災土地物件令第三条は、同条所定の期間、借地権者の土地に対する使用収益を制限すると共に、その地代又は借賃の支払義務を免れしめるに止まり、借地権自体の譲渡を制限禁止する趣旨ではない。 二 一旦相手方の賃借権を承認した者は、賃貸借の対抗要件の欠缺を主張して相手方の賃借権を否定することは許されない。
一 戦時罹災土地物件令第三条の趣旨 二 相手方の賃借権を承認した者と賃貸借の対抗要件の欠缺主張の許否
戦時罹災土地物件令(昭和20年勅令411号)3条,民法605条,建物保護ニ関スル法律(明治42年法律40号)1号
判旨
新所有者が賃借人の賃借権を一度承認した場合には、賃借権について対抗要件が備わっていないことを理由にその存在を否定することは許されない。
問題の所在(論点)
不動産の譲受人が賃借人の賃借権を承認した後に、当該賃借権が対抗要件を備えていないことを理由として、その存在を否定することができるか。
規範
不動産の新所有者が、賃借人に対し、その賃借権を明示または黙示に承認した場合には、信義則上、賃借権の対抗要件(不動産登記法、借地借家法等)の欠缺を主張して、当該賃借権の存在を否定することは許されない。この承認にあたり、新所有者が対抗要件の欠缺という法的事実を認識している必要はない。
重要事実
本件土地の賃借人(被上告人)は、前所有者から賃貸人の承諾を得て借地権を譲り受けたが、借地権自体の登記はなく、土地上に登記ある建物も所有していなかった。その後、上告人が信託解除により本件土地の所有権を取得し、所有権移転登記を完了した。しかし、上告人は所有権取得直後の昭和22年3月中に、被上告人の借地権を黙示に承認していた。
事件番号: 昭和44(オ)332 / 裁判年月日: 昭和44年7月24日 / 結論: 棄却
従前の土地の一部に賃借権を有する者は、右賃借権について権利指定の届出をした場合であつても、区画整理事業の施行者から仮換地上の使用収益部分の指定を受けないかぎり、仮換地を現実に使用収益する権限を有しない。
あてはめ
上告人は本件土地の所有権を取得した後、被上告人に対してその借地権を黙示に承認している。一度承認をした以上、その後に被上告人の借地権に登記等の対抗要件が備わっていないことを奇貨として、借地権を否定することは許されない。また、承認の際に上告人が対抗要件の欠缺を認識していたかどうかは、承認の効果を左右するものではない。したがって、上告人は対抗要件の欠缺を主張して建物の収去等を求めることはできない。
結論
上告人が一旦被上告人の賃借権を承認した以上、もはや対抗要件の欠缺を主張して賃借権を否定することは許されない。
実務上の射程
対抗要件を備えていない不完全な権利であっても、第三者がこれを承継した後に「承認」という行動をとった場合には、信義則(禁反言)の観点から対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を失うことを示す。答案上は、対抗関係の存否が争点となる場面で、相手方の承認の事実がある場合にその主張を封じる論理として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)190 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の譲受人が、当該不動産に対する賃借権の存在を知って買い受けた場合であっても、当該賃借権が対抗要件を欠いている以上、新所有者が土地の明渡しを求めることは原則として権利の濫用にあたらない。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地について賃借権を有していた。被上告人は、上告人が本件土地を占有し賃借権…
事件番号: 昭和24(オ)35 / 裁判年月日: 昭和28年12月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】確認の訴えは、現在の権利又は法律関係の存否を対象とすべきであり、過去の法律関係の確認を求める訴えは、原則として確認の利益を欠き不適法である。 第1 事案の概要:上告人(土地所有者)は、無断譲渡を理由に賃貸借契約を解除したとして、占有者である被上告人らに対し土地明渡請求等を提起した。しかし、訴訟継続…