ひとり身の借家人が先夫の子及びその妻子三名を同居させている場合先夫の子をして借家人の主な営業を担当させているときは、賃貸人の解約申入につき借家法第一条ノ二にいわゆる正当の有無の判断に当り、借家人の家屋使用利益を衡量するにつき右同居者の居住を参酌することを妨げない。
借家法第一条ノ二の正当事由の有無の判断に参酌し得べき借家人の同居者の居住
借家法1条ノ2
判旨
賃貸借契約の解約申入れにおける「正当の事由」の有無は、貸主・借主双方の自己使用の必要性だけでなく、借主の居住の安全を確保するための貸主側の配慮や、代替物件の提供状況等の諸事情を総合して判断すべきである。
問題の所在(論点)
旧借家法1条の2に基づく解約申入れにおいて、賃貸人が引揚者であり自己使用の必要性が高い場合に、賃借人の生業(看板業等)や居住の継続性をどの程度考慮すべきか、また賃貸人が提示した代替物件が不十分な場合に正当事由が認められるか。
規範
借地借家法(旧借家法1条の2)における解約申入れの「正当の事由」の存否を判断するにあたっては、貸主側に存する自ら使用することを必要とする程度のほか、借主側の居住の安全、特にかかる居住が危険に曝されることを防ぐために貸主において社会的評価上納得のゆく処置(立退料の提供や代替物件の提示等)を講じたか否かを、解約申入れ当時の諸般の事情と併せて総合的に考慮すべきである。
重要事実
賃貸人(新家主)である上告人は、外地からの引揚者であり、本件家屋を自ら使用する必要があった。一方、賃借人である被上告人は、昭和6年以来約20年間にわたり本件家屋に居住し、家主の承諾を得て改造を施した上で、菓子小売業や看板業(息子が担当)を営んで家族4名で生活していた。上告人は代替物件として自らの居住先との入替えを提案したが、そこは土間が狭く、主たる家業である看板業の継続が困難な物件であった。また、上告人の前主を含め、買受に際して被上告人との事前交渉も十分になされていなかった。
あてはめ
上告人側に自己使用の必要性があるとしても、被上告人側は長年本件家屋を拠点に生業を営んでおり、居住の安全を確保する必要性が高い。上告人が提案した代替物件は、看板製作に必要な広土間がなく、大幅な改造なしには家業の継続が困難であるため、これに応じなかった被上告人を責めることはできない。また、新家主として居住の安全を害さないための社会的評価上納得のゆく処置(十分な交渉や適切な代替物件の提供)が尽くされたとはいえず、双方の具体的諸事情を比較衡量すれば、正当事由があるとは認められない。
結論
解約申入れの正当事由は認められず、賃貸借契約の解約は無効である(上告棄却)。
実務上の射程
新家主が自己使用を必要とする場合であっても、借主の長年の居住や生業の継続性を重視する。特に、代替物件の提示がある場合、それが借主の従前の生業(店舗・作業場等)を実質的に維持できるものでない限り、正当事由を補完する要素として低く評価される。答案上では、正当事由の判断における「立ち退き後の居住・生業の確保」という観点を強調する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和24(オ)203 / 裁判年月日: 昭和25年6月16日 / 結論: 棄却
借家法第一条ノ二に規定する建物賃貸借解約申入の「正当の事由」とは、賃貸借の当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照し妥当と認むべき理由をいうのである。