一 借家法第一条ノ二にいわゆる「正当ノ事由」の有無は、貸家人の事情だけでなく、借家人の事情をも考慮し、双方必要の程度を比較考慮して決しなければならない。 二 貸家人の解約申入後、借家人において他に家を捜がす努力をせず、二カ年の日時を徒過した事実は、右の「正当ノ事由」の有無を判断するに当り、参酌すべき借家人側の一事情たり得る。 三 借家法第三条による解約の申入れは、必ずしも当初から六カ月の猶予期間を附さなくても、解約申入後六カ月を経過すれば、解約の効力を生ずる。
一 借家法第一条ノ二にいわゆる「正当ノ事由」の有無の判断 二 借家法第一条ノ二の「正当ノ事由」の有無を判断するに当り参酌すべき借家人側の一事情 三 六カ月の猶予期間を附さない家屋賃貸借契約の解約申入の効力
借家法1条ノ2,借家法3条
判旨
賃貸借の解約申入れにおける「正当の事由」は、賃貸人と賃借人双方の必要性を比較考慮して決すべきであり、賃貸人が移転先を提供するなどの誠意を示している一方で、賃借人が移転の努力を全く払わないなどの事情もその判断の重要な要素となる。
問題の所在(論点)
賃貸人が自己の居住ではなく社会的な活動(インド人宿泊施設)のために使用を必要とする場合において、賃借人の移転努力の欠如や賃貸人による代替物件の提供の申し出を「正当の事由」の判断においてどのように評価すべきか。
規範
旧借家法1条の2(現借地借家法28条参照)にいう「正当の事由」は、賃貸人が自ら使用することを必要とする場合だけでなく、諸般の事情を参酌して決すべきである。具体的には、住宅難の状況下において、賃貸人と賃借人双方の家屋使用を必要とする事情を比較考慮し、双方の互譲の精神や移転に向けた努力の有無等の信義則上の諸事情も間接の事情として考慮される。
重要事実
被上告人(賃貸人)は、日本再建に寄与する在日インド人の宿泊・集会施設として供するため本件家屋を買い受け、上告人(賃借人)らに対し解約を申し入れた。被上告人は、上告人らに対し自己所有の別の住宅(aの家屋)を移転先として提供する意思を示し、空室のまま確保していた。これに対し、上告人A1は他人のために家屋を新築する資力があるにもかかわらず、本件家屋の明渡しを拒み続け、2年以上の係争期間中も自らの移転先を探すなどの努力を一切行わなかった。
あてはめ
被上告人の使用目的は、インド人貿易業者の支援という多衆の利益に資するものであり、被上告人側の事情のみを見れば正当な事由となり得る。他方、上告人らは住宅難を理由に居住の継続を主張するが、被上告人が代替物件を用意して誠意を示しているにもかかわらず、一顧だにせず、移転の努力を全くしていない。住宅難であっても、互譲の精神に基づき家を探す努力をすべきであり、十分な努力をしても見つからないという事情がない限り、単なる居座りは正当化されない。したがって、被上告人の努力と上告人の不作為を相俟って考慮すれば、解約の申し入れには正当な事由が認められる。
結論
本件解約の申入れには正当の事由がある。また、解約申入れ時に6か月の猶予期間を付さずとも、申入れから6か月を経過すれば解約の効力が生じるため、本件解約は有効である。
実務上の射程
正当事由の判断における「双方の事情の比較衡量」において、賃貸人による立退料以外の事実上の便宜供与(代替物件提供)や、賃借人側の信義則に反するような不誠実な対応(移転努力の放棄)が重要な考慮要素となることを示しており、実務上のあてはめにおいて有用である。
事件番号: 昭和23(オ)26 / 裁判年月日: 昭和28年5月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解約申入れにおける「正当の事由」は、賃貸人・賃借人双方の利害得失を比較考慮し、社会上・経済上の諸般の事情を参酌して判断すべきである。賃貸人に自己使用の必要性がある場合でも、賃借人の居住・生活維持の必要性や一部明渡しの経緯等を総合考慮し、正当事由が否定されることがある。 第1 事案の概要…