一 調停調書に対する請求異議の訴の第一審は、当該調停の成立した裁判所の専属管轄に属する。 二 区裁判所で成立した調停に対し裁判所法施行後に提起する請求異議の訴の第一審は、右区裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄に属する。 三 家屋の賃貸人がみずから使用する必要があるとして、賃借人を相手方として家屋明渡の調停を申し立て、その結果、賃貸借契約を合意により解除し家屋を賃貸人に明け渡す旨の調停が成立した場合、かりにその後に至り、賃貸人に右家屋を必要とする事情のなかつたことが明らかになつたとしても、賃貸人において家屋を必要とする事情が右合意解除または明渡の合意の内容となつていない以上、該調停は要素に錯誤があるものということはできない。 四 当事者が家屋の賃貸借契約を合意解除し、右合意解除の効力発生を期限の到来にかからしめたときは、期限の到来により賃貸借は当然終了し、この場合には借家法第一条ノ二、第二条第一項の賃貸借の更新に関する規定は適用がないと解するのが相当である。
一 調停に対する請求異議の第一審の管轄 二 区裁判所で成立した調停に対し裁判所法施行後に提起する請求異議の第一審の管轄 三 調停について要素の錯誤の認められない一事例 四 家屋の賃貸借契約の期限付合意解除の効力
民訴法545条1項,民訴法560条,民訴法563条,借地借家調停法28条,借地借家調停法13条,裁判所法施行令3条1項,裁判所法施行法の規定に基く調停に関する法律の変更適用に関する政令(昭和22年政令31号)本文1号,民法95条,借家法1条ノ2,借家法2条1項
判旨
調停調書に基づく請求異議の訴えの専属管轄は調停が成立した裁判所にあり、調停成立の前提となった動機は合意の内容をなさない限り要素の錯誤とならず、また将来の合意解除は借家法の更新規定の適用を受けない。
問題の所在(論点)
1. 廃止された区裁判所での調停に基づく請求異議の訴えの管轄。 2. 合意解除の前提となった「必要事情」の誤認が要素の錯誤に当たるか。 3. 将来の合意解除の定めに借家法の更新規定が適用されるか。
規範
1. 調停調書を債務名義とする請求異議の訴えは、当該調停が成立した裁判所の専属管轄に属する。 2. 合意の前提となった事情は、当事者間で特別の合意により内容とされた場合を除き、単なる「縁由」に過ぎず、その不一致は意思表示の要素の錯誤(民法95条)を構成しない。 3. 賃貸借契約を将来の特定の日をもって終了させる「合意解除」は、更新拒絶とは性質を異にするため、借家法(当時)の更新制限規定は適用されない。
重要事実
被上告人が「老後の孝養を受けるため長男を住まわせる必要がある」と主張して、上告人に対し建物明渡しを求めて調停を申し立てた。昭和22年、両者は「昭和24年1月末日限り賃貸借契約を合意解除し、同日限り建物を明け渡す」旨の調停を成立させた。その後、上告人は「被上告人の必要事情が虚偽であった(錯誤による無効)」および「借家法の更新規定により契約は存続している」と主張して請求異議の訴えを提起した。
あてはめ
1. 札幌区裁判所の廃止後は、所在地を管轄する札幌地方裁判所が調停成立裁判所とみなされ専属管轄を有する。 2. 被上告人が建物を必要とする事情は、上告人らが当初争っていたことからも確定的な前提事実として合意されたとは認められず、単なる合意の縁由(動機)に過ぎない。したがって、その事情が事実と異なっても要素の錯誤には当たらない。 3. 本件調停は「昭和24年1月末日限り合意解除する」ものであり、単なる期間短縮ではない。合意解除は当事者の自由な意思に基づくものであり、更新規定(借家法1条の2等)が介在する余地はない。
結論
本件調停は有効であり、期限の到来とともに賃貸借は終了する。札幌地裁の管轄肯定および錯誤・借家法の主張排斥は正当である。
実務上の射程
意思表示の動機の錯誤に関する古典的判例として、動機が合意の内容(表示)となっているか否かの区別を重視する。また、強行法規性のある借地借家法下においても、真摯な合意解除であれば法定更新の規定に優先して有効となり得ることを示している。
事件番号: 昭和29(オ)167 / 裁判年月日: 昭和31年2月24日 / 結論: 棄却
調停調書に対する請求異議の訴の第一審は、調停の成立した裁判所の専属管轄に属する。