一 抵当権実行による不動産競売の申立人は、競落許可決定のあつた後は、利害関係人全員の同意をえた場合にのみ取下をなしうる。 二 右の利害関係人の中には、競落代金の支払をしなかつた競落人も含まれる。 三 競売裁判所が、取下が無効であるにかかわらず、これを有効視して競売申立登記の抹消登記を嘱託し、競売手続を続行しない場合には、利害関係人は民訴第五四四条の執行方法に関する異議を主張すべきであつて、競売手続の続行を求める前提として独立の訴により抹消登記の回復またはその同意を求める利益を有しない。
一 競落許可決定後の競売申立の取下の許否 二 右取下における同意権者の範囲 三 競売申立登記の抹消登記の回復を求める方法
競売法23条,競売法32条2項,競売法35条,民訴法544条,民訴法688条,不動産登記法65条
判旨
不動産競売において代金不払により再競売が命じられた場合、競落人は再競売期日の三日前まで代金等を支払って不動産を取得する権利を有する利害関係人に該当し、その同意のない競売申立の取下げは無効である。この場合、執行裁判所が取下げを有効として手続を停止しても、利害関係人は執行異議により手続続行を求めるべきであり、別途訴えをもって抹消登記の回復等を求める訴えの利益は認められない。
問題の所在(論点)
競落許可決定後に代金を支払わなかった競落人が、再競売手続において「利害関係人」として取下げに対する同意権を有するか。また、不適法な取下げにより手続が停止し、競売登記が抹消された場合に、訴えをもってその回復を求める訴えの利益があるか。
規範
執行裁判所が不適法な競売申立の取下げを有効と誤認して手続を続行しない場合、利害関係人は執行方法に関する異議(民事執行法11条参照)を申し立てるべきである。一般に、執行手続内の救済手段である執行異議によってその目的を達し得る場合には、別途独立の訴えをもって権利を主張する「訴えの利益」は認められない。
重要事実
債権者である組合は、債務者(被上告人)の土地建物に対し競売を申し立て、上告人が最高価競買人として競落許可決定を受けた。しかし、上告人が代金支払を怠ったため再競売が命じられた。その後、再競売期日が未定の間に、組合は上告人の同意を得ずに競売申立を取り下げた。裁判所はこの取下げを有効として競売申立登記を抹消したため、上告人は競売手続の続行を求める前提として、無効な取下げに基づく抹消登記の回復手続および同意を求める訴えを提起した。
あてはめ
旧競売法23条等の解釈によれば、競落許可決定後は利害関係人全員の同意がなければ申立の取下げはできない。再競売の場合も、従前の競落人は再競売期日の3日前までに代金等を支払えば所有権を取得できる地位にあるから、当然に同意を要する「利害関係人」に含まれる。したがって、上告人の同意のない本件取下げは無効であり、競売手続は依然として裁判所に継続している。この場合、上告人は執行方法に関する異議を申し立てることで、裁判所に対し手続の続行および職権による登記回復を促すことができる。このように執行異議により目的を達し得る以上、あえて独立の訴えを提起する必要性はない。
結論
本件訴えは、上告人の主張自体からして訴えの利益を欠くため、却下されるべきである。
実務上の射程
執行手続上の瑕疵については、原則として執行手続内の不服申立て(執行異議・執行抗告)によって解決すべきであり、それにより救済が可能な限りは別訴の提起は許されないという「訴えの利益」に関する一般原則を示す。民事執行法下の実務においても、手続の続行を求める局面での訴えの利益を判断する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和35(オ)865 / 裁判年月日: 昭和37年4月20日 / 結論: 棄却
抵当権者不知の間に不法に抹消された抵当権設定登記の回復登記について、登記上利害関係を有する第三者は承諾を拒みえない。
事件番号: 昭和28(オ)254 / 裁判年月日: 昭和30年6月28日 / 結論: 破棄差戻
甲のため乙所有の建物についてなされた所有権移転請求権保全の仮登記が不法に抹消された後、善意無過失で、右建物につき、丙が乙より所有権の移転を受け、丁が丙より抵当権の設定を受けて、夫々その登記を経た場合、丙および丁は、右の抹消登記の回復登記により実質上不測の損害を受けないと認められるか、またはその損害が甲の損害と比べて顧慮…
事件番号: 昭和46(オ)295 / 裁判年月日: 昭和48年4月3日 / 結論: 棄却
公正証書が甲を代理する権限のない乙の作成嘱託によつて作成されたものであるときは、該公正証書の効力は甲に及ばないというべきであり、その公正証書にもとづき甲所有の不動産についてされた強制競売手続は同人に対する関係では債務名義なくしてされたものというべきであつて、該不動産の競落人はその所有権を取得しない。