憲法第二五条第一項は、自由な意志に基いて締結した契約により家屋明渡の債務を負担する者に対し、裁判所がその契約の履行として家屋明渡を命ずることを禁ずるものではない。
契約上家屋明渡の義務ある者に家屋明渡を命ずる裁判と憲法第二五条第一項
憲法25条1項
判旨
契約解除権の行使後であっても、解除権者が履行期の延期を承諾する等の事情があれば、解除権を黙示的に放棄したものと認められ、契約は存続する。また、売買契約に基づく家屋明渡請求に借家法の「正当事由」は適用されない。
問題の所在(論点)
1. 解除の意思表示後、履行期延期の合意によって解除権が消滅(放棄)したと認められるか。2. 売買契約に基づく家屋明渡請求において、憲法25条や借家法の正当事由規定が適用・考慮されるべきか。
規範
解除権者は、解除権が発生しまたは行使した後であっても、履行期を延期する等の合意を成立させることにより、解除権を黙示的に放棄することができる。また、家屋の売買契約に基づき売主が買主に対し家屋の明渡しを求める場合、当該契約関係には借家法の「正当事由」に関する規定の適用はない。
重要事実
上告人(売主)と被上告人(買主)との間で家屋の売買契約が締結された。被上告人が代金の支払を遅滞したため、上告人は一旦解除の意思表示をしたが、その後、被上告人から念書が差し入れられる等の経緯を経て、履行期を延期する契約が成立した。その後、被上告人は延期された期日に基づき代金を供託したが、上告人は既になされた解除の効力を主張し、家屋の明渡しを拒んだ。また、上告人は明渡しの強制は憲法25条(生存権)に反し、借家法上の正当事由も必要であると主張した。
事件番号: 昭和25(オ)246 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済予約に基づき債権者が所有権移転の仮登記をすることは、特約のない限り、不動産登記法上認められた適法な権利保全行為であり、債務者の金融を妨げる不当な行為には当たらない。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)は、債務者(上告人)所有の建物につき代物弁済の契約(予約)を締結した。債権者は、金銭債務…
あてはめ
1. 事実関係によれば、単に念書が差し入れられただけでなく、その後の事情を総合すると履行期延期の契約が成立したと認められる。この場合、上告人は一度行使した解除権による効果を維持せず、契約を存続させる意思があったと評価できるため、解除権は黙示的に放棄されたといえる。2. 憲法25条は私人間における契約上の義務履行(家屋明渡し)を命ずる裁判を禁止するものではない。また、本件は売買契約に基づく明渡請求であり、賃貸借関係を前提とする借家法の正当事由の審理は不要である。
結論
解除権の放棄により契約は存続しており、代金供託により義務を履行した被上告人の明渡請求は正当である。また、本件に借家法の正当事由の適用はない。
実務上の射程
解除後の履行遅滞において、債権者が履行を猶予・期待するような行動をとった場合に「解除権の放棄」が認定されうる実務上の端緒を示す。また、売買と借家法の適用場面の峻別、および憲法25条の私人間効力の限界(裁判所による執行の合憲性)を確認する際に参照すべき判例である。
事件番号: 昭和43(オ)717 / 裁判年月日: 昭和45年3月26日 / 結論: 棄却
甲所有の丁土地と乙所有の戊土地とを交換する契約が甲乙間になされ、乙が丁土地をさらに丙に譲渡して未だその登記を経ない間に、乙に対する国税の滞納処分として戊土地が差押公売されたため、甲が履行不能を理由に右交換契約を解除した場合において、甲が、交換契約に基づき戊土地を自ら使用しており、他方右契約当時においても丁土地が乙から丙…
事件番号: 昭和33(オ)1067 / 裁判年月日: 昭和36年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買において、買主が猶予期限までに残代金を支払わないときは、売主の登記義務の履行を待たずに契約を解除する旨の特約(失権約款)がある場合、その期限の経過により契約は当然に解除される。 第1 事案の概要:不動産の売買契約において、売主(被上告人)と買主(上告人)との間で、残代金の支払について猶予…
事件番号: 昭和33(オ)76 / 裁判年月日: 昭和35年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において残代金の支払期日を徒過した際に「当然に契約解除となる」旨の約款が存在する場合であっても、特段の事情がない限り、直ちに無催告で解除の効果が発生するものではないと解するのが相当である。 第1 事案の概要:本件では、売買契約の当事者間で残代金の支払期日が定められ、当該期日を徒過した場合に…
事件番号: 昭和28(オ)652 / 裁判年月日: 昭和31年3月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権が譲渡され、さらに譲受人から譲渡人に再譲渡された場合、対抗要件が備えられていなくても、特段の事情がない限り、譲渡人(元の債権者)が行った履行の催告は有効である。 第1 事案の概要:被上告人が上告人に対して有していた準消費貸借上の債権が、一旦、第三者である訴外Dに譲渡され、その後、Dから再び被上…