一 夫婦離婚等の場合において、不法に子を拘束する夫婦の一方に対して法律上子の監護権を有する他の一方は、人身保護法に基いて救済を請求することができる。 二 母が暴力をもつて満二歳に達しない幼児を連れ去つたとしても、その子が現在平穏に養育され幸福である場合には、現在の状態をもつて不法の拘束として、人身保護法を適用する必要はない。
一 子の監護権と人身保護請求。 二 不法に始められた拘束と人身保護法の適用のない場合。
人身保護法2条
判旨
夫婦間の子の引渡し請求において、人身保護法2条1項の「法律上正当な手続によらないで」拘束されているか否かは、単なる監護権の有無という形式的側面のみならず、拘束の態様や子の幸福に照らした実質的妥当性を考量して判断すべきである。
問題の所在(論点)
夫婦間において、一方が他方の監護する子を人身保護法に基づき取り戻そうとする場合、いかなる基準で「法律上正当な手続によらない」拘束(同法2条1項)に該当するかを判断すべきか。
規範
人身保護法に基づく子の引渡し請求が認められるためには、その拘束が「法律上正当な手続によらない」ことが必要である。この要件の判断にあたっては、拘束者に監護権があるかという形式的要件のみならず、被拘束者である子の年齢、養育環境、監護の意思、および引渡しが子の幸福に資するかという実質的観点から、現在の拘束が顕著に不当であるか否かを考量すべきである。
重要事実
請求者(父)と拘束者(母)は離婚未成立の状態にあり、母は長男(満2歳未満)と次男(生後1年未満)を監護している。父は、母が暴力を用いて子を連れ去ったこと、および子の栄養状態が悪化していることを理由に、人身保護法に基づき子の引渡しを求めた。原審は、母による監護に特段の不適切さは認められず、乳幼児である子らにとって母の膝下で養育されることが幸福であると認定した。
あてはめ
本件において、母は依然として共同親権者として法律上の監護権を有しており、形式的に不法な拘束とはいえない。また、拘束の態様について、仮に連れ去り時に暴力があったとしても、現在は平穏に養育されている。さらに、実質的側面で見れば、被拘束者らは満2歳に満たない乳幼児であり、母による養育の意思も認められ、栄養失調等の事実もない。このような状況下では、母のもとに留めることが子の幸福に適うものであり、現在の拘束が実質的に不当であるとはいえない。したがって、家庭裁判所による恒久的な解決を待つまでの措置として、母による拘束を違法と断じることはできない。
結論
本件の拘束は人身保護法2条にいう「法律上正当な手続によらない」ものとは認められず、請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
人身保護請求による子の引渡しが認められるための「顕著な違法性」の判断枠組みを示した初期の重要判例である。現行の実務(最大判平5.10.19等)では、拘束が「法律上正当な手続によらない」といえるためには、他方の監護権を侵奪した場合や、子の幸福に反することが明白であるといった「顕著な違法性」が必要とされるが、本判決はその基礎となる実質的判断の必要性を説いたものとして機能する。
事件番号: 平成11(オ)133 / 裁判年月日: 平成11年4月26日 / 結論: 破棄差戻
離婚等の調停の期日において調停委員の関与の下に形成された夫婦間の合意によってその共同親権に服する幼児との面接が実現した機会をとらえて,夫婦の一方が実力を行使して右幼児を面接場所から自宅へ連れ去って拘束したなど判示の事情の下においては,右幼児が現に良好な養育環境の下にあるとしても,右拘束には,人身保護法二条一項,人身保護…
事件番号: 昭和44(オ)698 / 裁判年月日: 昭和44年9月30日 / 結論: 棄却
一、夫婦関係が破綻に瀕している場合に、夫婦の一方が他方に対し人身保護法に基づき共同親権に服する幼児の引渡を請求したときには、幼児の拘束がいかなる手段、方法により開始されたかということよりも、幼児を夫婦のいずれに監護させるのが幼児のために幸福であるかを主眼として、その拘束の違法性の有無を判定し、右請求の許否を決すべきであ…