家屋の全部明渡を求める訴訟において、原告がその一部だけでも明渡を求める意思であることが明らかな場合に、裁判所が右一部の明渡を求める請求は理由があり、他の一部の明渡を求める請求は理由がないと認めたときは、その一部だけの明渡を命じ、他の部分の明渡を求める請求はこれを棄却すべきで、この場合、全部明渡の請求にかかわらず、一部明渡を命じたからといつて、「当事者ノ申立テサル事項ニ付裁判ヲ為」したものということはできない。
家屋の全部明渡の請求に対する一部明渡の判決と民訴第一八六条
民訴法186条
判旨
民法612条にいう「転貸」にあたるというためには、当事者間に法的拘束力を生ぜしめる趣旨の法律上の契約関係が存在することを要し、好意に基づき事実上居室の起居を許したにすぎない場合は転貸に当たらない。
問題の所在(論点)
賃借人が第三者を家屋の一部に無償で同居させた場合において、それが民法612条にいう「転貸」にあたるか、それとも単なる事実上の好意的利用にすぎないかの区別基準が問題となる。
規範
民法612条1項にいう「転貸」とは、賃借人が第三者をして目的物を使用収益させる法的義務を負い、これに対応する権利を第三者に与える法律上の契約関係(使用貸借契約や賃貸借契約等)に基づくものであることを要する。したがって、単に好意によって事実上の起居を許容したにすぎず、当事者間に法的拘束力を生ぜしめる趣旨の契約関係が認められない場合には、同条の「転貸」には該当しない。
重要事実
賃借人(被上告人)は、知人Dから食堂の営業を譲り受けた縁故から、本件家屋の南側二階の一部(八畳間)をDに無償で貸与し、同居させた。しかし、一階の玄関や他の部屋は依然として賃借人が物置として使用しており、Dは賃借人との間の契約関係に基づく独立の占有者ではなく、好意的に無償で置いてもらっている状態であった。賃貸人(上告人)は、これが無断転貸にあたるとして賃貸借契約の解除および家屋の明け渡しを求めた。
あてはめ
本件において、賃借人とDとの関係をみると、食堂の譲渡という縁故に基づき、広大な家屋の一部である二階の一室に、好意から事実上起居することを許したにすぎない。賃借人が依然として一階部分等を自ら管理・使用している状況に鑑みれば、Dは賃借人との間に法的拘束力を生じさせる契約関係を有する独立の占有者とは認められない。したがって、当事者間に法的意味での使用貸借契約が成立した事実は認められず、単なる好意による事実上の利用許容といえる。
結論
本件の同居は、当事者間に法的拘束力を生ぜしめる趣旨の契約関係に基づくものではないため、民法612条の転貸には該当しない。したがって、無断転貸を理由とする解除は認められない。
実務上の射程
無断転貸(民法612条)の成否を検討する際、契約関係の存否(法的拘束力の有無)を分水嶺とする射程を持つ。特に家族や知人の同居が「転貸」か「単なる同居」かが争われる事案において、占有の独立性や対価性の有無、関係性の深さ等から契約関係を否定する際の有力な根拠となる。また、処分権主義(一部認容)に関する判旨も含むが、実体法上は「契約関係の要否」が重要である。
事件番号: 昭和25(オ)185 / 裁判年月日: 昭和28年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が第三者との間で建物の利用に関する契約を締結し、当該第三者が建物内で商品の陳列・販売を行っている実態がある場合、民法612条の転貸借にあたる。また、権利濫用の主張は上告審において新たに行うことは許されない。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、株式会社D商会との間で本件建物の利用に関する契…