一 新株発行差止請求の訴えが新株発行無効の訴えにその出訴期間経過後に変更された場合であっても、右新株発行差止請求の訴えが、持株比率の減少等の不利益を受けると主張する株主によって、新株発行を阻止する目的の下に新株発行差止めの仮処分命令を得た上で提起されたものであるなど判示の事実関係の下においては、仮処分命令違反を無効原因とする変更後の新株発行無効の訴えは、出訴期間の遵守に欠けるところがない。 二 新株発行差止めの仮処分命令に違反して新株発行がされたことは、新株発行無効の訴えの無効原因となる。 (一、二につき補足意見、反対意見がある。)
一 新株発行差止請求の訴えから変更された新株発行無効の訴えが出訴期間の遵守に欠けるところがないとされた事例 二 新株発行差止めの仮処分命令に違反したことと新株発行無効の訴えの無効原因
商法280条ノ10,商法280条ノ15,民訴法235条
判旨
新株発行差止めの仮処分命令に違反してされた新株発行は、新株発行無効の訴えにおける無効原因となる。また、差止請求の訴えを無効の訴えに変更する場合、両訴えに同一の経済的利益の追求が認められる等の特段の事情があれば、出訴期間の遵守は旧訴提起時を基準に判断できる。
問題の所在(論点)
1. 新株発行差止めの仮処分命令に違反してなされた新株発行は、無効原因となるか。2. 新株発行差止請求の訴えから新株発行無効の訴えへの変更において、出訴期間の遵守はどの時点を基準に判断すべきか。
規範
1. 会社法上の新株発行差止請求制度は、株主の不利益を事前に防止する趣旨であり、差止仮処分の機会を保障する法意に照らせば、仮処分命令違反は新株発行の無効原因となる。2. 訴えの変更における出訴期間の遵守は原則として変更時を基準とするが、新旧両請求の間に、新請求を旧訴提起時に提起したと同視できる「特段の事情」があるときは、旧訴提起時を基準とすべきである。
重要事実
タクシー事業等を営む上告人会社は、支配権維持を目的として第三者割当増資を決議した。株主である被上告人は、新株発行差止めの仮処分命令を得た上で差止請求の訴えを提起したが、上告人はこれに違反して新株発行を強行した。その後、被上告人は差止請求の訴えを新株発行無効の訴えに変更したが、この変更が新株発行日から6か月(当時の商法による出訴期間)を経過していたため、出訴期間遵守の成否および仮処分違反が無効原因となるかが争点となった。
あてはめ
1. 差止請求権の実効性を担保するため、仮処分命令を得る機会を株主に与える法の趣旨からすれば、仮処分違反が無効原因にならないと解すと法の趣旨が没却される。2. 本件では、差止請求の訴えと無効の訴えは共に新株発行の阻止・効力否定を目的とする同一の経済的利益を追求するものであり、証拠資料の利用も期待できる。また、差止請求の提起時点で、仮に発行された場合にはその効力を争う意思も表明されていたといえる。したがって、無効の訴えは差止請求の訴えの提起時に提起されたものと同視できる「特段の事情」がある。
結論
1. 仮処分命令に違反した新株発行は無効原因となる。2. 本件の訴えの変更には「特段の事情」が認められるため、出訴期間は旧訴提起時を基準に判断され、遵守されたものと解される。
実務上の射程
会社法下でも妥当する。新株発行無効原因は限定的に解されるが、裁判所の命令(仮処分)に対する明白な違反は例外的に無効原因となる。答案では、差止請求から無効の訴えへの変更に伴う出訴期間(会社法828条1項)の論点と、無効事由(法210条違反等)の論点をセットで論じる際に不可欠な判例である。
事件番号: 平成12(受)469 / 裁判年月日: 平成15年3月27日 / 結論: 破棄差戻
1 新株発行の実体がないのにその外観が存する場合には,新株発行不存在確認の訴えにより,対世効のある判決をもってその不存在の確定を求めることができる。 2 新株発行不存在確認の訴えに出訴期間の制限はない。
事件番号: 平成5(オ)316 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 破棄自判
新株発行不存在確認の訴えは、会社を被告としてのみ提起することができる。
事件番号: 昭和46(オ)396 / 裁判年月日: 昭和46年7月16日 / 結論: 棄却
株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもつて発行されたものであつても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである。
事件番号: 平成5(オ)317 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 棄却
新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる。