現行刑事訴訟法規のもとで、裁判所が検察官に対し、その所持する証拠書類または証拠物を、検察官において公判で取調べを請求すると否とにかかわりなく、予め、被告人または弁護人に閲覧させるように命令することはできない。
裁判所は検察官所持の証拠を予め被告人または弁護人に閲覧させるよう命令することができるか。
刑訴法40条,刑訴法49条,刑訴法299条1項,刑訴法300条,刑訴規則178条の3,刑訴規則193条
判旨
裁判所は、検察官が公判で取調請求を予定しているか否かを問わず、所持する証拠書類等の全部を無差別に弁護人に閲覧させるよう命ずることはできない。現行法上、証拠の事前閲覧は取調請求を前提とする特定の証拠に限定されており、包括的な証拠開示を命ずる一般的法規は存在しない。
問題の所在(論点)
裁判所は、刑事訴訟法上の明文の規定がないにもかかわらず、検察官が取調請求を予定していない証拠も含め、所持する証拠書類等の全部を弁護人に閲覧させるよう命じることができるか。
規範
検察官が公判において取調を請求すると否とを問わず、また証拠能力や関連性の有無を問わず、所持する証拠の全部または一部を弁護人に閲覧させるよう裁判所が命ずることができる一般的法規は存在しない。刑訴法299条1項等の規定は、特定の証拠の取調を請求する場合に、相手方に防御の準備をさせるための条件として事前閲覧を定めたものに過ぎず、取調請求を予定しない証拠まで閲覧させる義務を課すものではない。
重要事実
大阪地方裁判所において、第1回公判期日の冒頭、被告人の人定質問が終了した直後(起訴状朗読前)の段階で、弁護人が検察官所持の全証拠の閲覧謄写を求めた。これに対し、検察官は取調請求予定の一部の証拠は開示したが、その余の証拠については開示を拒否した。原審の裁判長は検察官に対し、弁護人へ手持証拠の全部を直ちに閲覧させるよう命ずる決定をしたが、検察官がこれを不服として特別抗告を行った。
事件番号: 昭和43(し)68 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
裁判所は、証拠調の段階に入つた後、弁護人から、具体的必要性を示して、一定の証拠を弁護人に閲覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申出がなされた場合、事案の性質、審理の状況、閲覧を求める証拠の種類および内容、閲覧の時期、程度および方法、その他諸般の事情を勘案し、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であり、かつこれにより罪証…
あてはめ
刑事訴訟法40条、49条は裁判所保管の書類に関する規定であり、検察官手持証拠には及ばない。また、刑訴法299条1項や刑訴規則178条の3は、特定の証拠の取調請求を前提として「あらかじめ」閲覧機会を与えるべきことを定めたものであり、取調請求を決していない証拠まで対象とするものではない。さらに、検察官の真実発見義務や公益的代表者としての職責は、訴訟法規の軌道に乗って行われるべきであり、明文なき包括的開示命令の根拠とはなり得ない。
結論
裁判所が検察官に対し、取調請求の有無を問わず手持証拠の全部を閲覧させるよう命ずることはできず、原命令は法律上の根拠を欠くため取り消されるべきである。
実務上の射程
本判決は、全面的な証拠開示命令を否定したものであるが、その後の大法廷判決(最判昭44.4.25)により、特定の証拠について「訴訟の進行状況」や「防御上の必要性」等の要件を満たす場合には、裁判所の訴訟指揮権に基づく証拠開示が認められるに至った。答案上は、本判決が「包括的・無差別的な開示」を否定した点を踏まえつつ、個別具体的な証拠開示の可否については昭44年判決の枠組みで論じるのが一般的である。
事件番号: 昭和43(し)109 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: その他
裁判所が、検察官申請証人の採用決定前に、同証人の反対尋問のため必要であるとの理由で、検察官に対し、その所持する当該証人の検察官に対する供述調書を弁護人に閲覧させることを命じた場合、特段の事情のないかぎり、その閲覧の時期を主尋問終了後反対尋問前と指定したとしても、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であるということはでき…
事件番号: 平成24(し)25 / 裁判年月日: 平成24年6月28日 / 結論: その他
刑事確定訴訟記録法に基づく判決書の閲覧請求について,「プライバシー部分を除く」とする限定の趣旨を申立人に確認することなく,閲覧の範囲を検討しないまま,民事裁判においてその内容が明らかにされるおそれがあるというだけの理由で同法4条2項4号及び5号の閲覧制限事由に該当するとして判決書全部の閲覧を不許可とした保管検察官の処分…
事件番号: 平成4(し)114 / 裁判年月日: 平成4年12月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法82条2項但書は、刑事確定訴訟記録の閲覧を権利として要求できることまでを認めたものではない。したがって、閲覧の制限を定めた刑事確定訴訟記録法等の規定は同条に違反しない。 第1 事案の概要:抗告人が、刑事確定訴訟記録法4条2項及び刑事訴訟法53条3項に基づき刑事確定訴訟記録の閲覧を求めたが、認め…
事件番号: 平成27(し)428 / 裁判年月日: 平成27年10月27日 / 結論: 棄却
刑事確定訴訟記録法4条1項ただし書,刑訴法53条1項ただし書にいう「検察庁の事務に支障のあるとき」には,保管記録を請求者に閲覧させることによって,その保管記録に係る事件と関連する他の事件の捜査や公判に不当な影響を及ぼすおそれがある場合が含まれる。