麻薬密売買にことよせて他人を誘き出し、その所持する麻薬購入資金を預かり同人のため保管中、該金員を不法に領得する目的をもつて同人を殺害し同人から事実上右金員の返還請求を受けることのない結果を生ぜしめて返還を免れたときは、たとえ右金員の授受は不法原因に基く給付であるがため被害者に返還請求権がないとしても刑法第二三六条第二項、第二四〇条後段の罪が成立する。
不法原因に基く給付と強盗殺人罪(刑法第二三六条第二項、第二四〇条後段)の成立。
刑法236条,刑法240条
判旨
2項強盗罪の成立には、被害者の処分行為は不要であり、暴行・脅迫により事実上支払の請求ができない状態に陥らせて利得を得た場合も含まれる。また、不法原因給付にかかる金員の返還債務であっても、暴行・脅迫を用いてその免脱を図れば同罪が成立する。
問題の所在(論点)
2項強盗罪(刑法236条2項)の成立に被害者の処分行為は必要か。また、不法原因給付に基づく金員の返還債務を免れる目的で被害者を殺害した場合、2項強盗殺人罪(刑法240条後段)が成立するか。
規範
刑法236条2項の罪は、1項の罪と処罰規定を同じくし、財物強取か不法利得かという点を除いて構成要素に差異はない。したがって、相手方の反抗を抑圧すべき暴行・脅迫を用いて財産上の不法利得を得れば足り、必ずしも相手方の意思による処分行為を強制することを要しない。また、利得の対象が不法原因給付に基づく債務の返還免脱であっても、事実上返還請求を受けることがない状態を作出する以上は不法利得罪を構成する。
重要事実
被告人Aは、被害者C・Dから麻薬購入資金として現金約30万円の保管を託されていた。Aは共犯者Bと共同し、当該預かり金を領得するため、船上からC・Dの両名を次々に海中に投げ入れて殺害した。これにより、Aは委託者らから事実上金員の返還請求を受けることがない状態を作り出し、その返還を免れた。
あてはめ
被告人らは、債務を免れる目的をもって被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行(海中への投下)を加え、被害者を殺害している。これにより、債権者である被害者が事実上支払を請求することができない状態に陥っている。仮に当該金員の授受が不法原因給付であり民事上は返還請求ができないものであったとしても、暴行によって事実上の返還請求を免れた以上、財産上の不法な利益を得たものといえる。したがって、被告人らの行為は不法利得を得るための暴行により人を死亡させたものと評価される。
結論
被告人らに強盗殺人罪(刑法240条後段、236条2項)が成立する。被害者の処分行為は不要であり、また債務が不法原因給付に基づくものであっても罪の成立は妨げられない。
実務上の射程
2項強盗における処分行為不要説(事実上の利益説)を確立した重要判例である。答案上では、犯人が暴行・脅迫によって債権者を殺害・失神させた場合など、処分行為を観念しにくい事案において2項強盗の成否を論ずる際の規範として用いる。
事件番号: 昭和35(あ)2796 / 裁判年月日: 昭和36年5月24日 / 結論: 棄却
一 刑法第二四〇条後段の罪は、強盗犯人が故意に人を死に致した場合及び傷害に因り人を死に致した場合の両者を包含するものであつて、強盗罪と殺人罪との結合罪又は強盗罪と傷害致死罪との結合罪にほかならず、従つて、強盗殺人罪についてはただ刑法第二四〇条後段のみを適用すれば足ること、つとに大審院判例の示すところであつて、今なお、こ…