犯人が債務の支払を免れる目的をもつて債権者に対しその反抗を抑圧すべき暴行、脅迫を加え、債権者をして支払の請求をしない旨を表示せしめて支払を免れた場合であると、右の手段により債権者をして事実上支払の請求をすることができない状態に陥らしめて支払を免れた場合であるとを問わずひとしく刑法第二三六条第二項の不法利得罪を構成するものと解すべきである。
刑法第二三六条第二項の強盗罪の成立
刑法236条
判旨
2項強盗罪の成立には、相手方の処分行為は不要であり、反抗を抑圧する暴行・脅迫によって債務の支払を免れるなど、事実上不法な利益を得れば足りる。債務免脱目的で債権者を殺害(未遂を含む)し、支払の請求ができない状態に陥らせる行為も同罪を構成する。
問題の所在(論点)
刑法236条2項(2項強盗罪)の成立において、財産上の利益を得るために被害者の「処分行為」が必要か。また、債権者を殺害して債務の履行を免れる行為が同罪に該当するか。
規範
刑法236条2項の強盗罪は、1項の罪と構成要素において差異はなく、相手方の反抗を抑圧すべき暴行・脅迫を手段として財産上の不法な利益を得ることで足りる。したがって、被害者の意思に基づく処分行為(作為・不作為を問わない)を強制することは要件ではない。暴行・脅迫により、被害者が事実上支払の請求をすることができない状態に陥らしめて債務の履行を免れた場合であっても、同罪が成立する。
重要事実
被告人は、被害者から計11万円を借り受けていたが、返済を免れるため、被害者を殺害して債務の履行を免れようと企図した。被告人は被害者を人通りの稀な道路に誘い出し、背後から凶器で頭部等を殴打して人事不省に陥らせた。被告人は即死したものと誤信して立ち去ったが、実際には致命傷に至らず未遂に終わった。
あてはめ
被告人は、債権者である被害者から執拗な督促を受けていたところ、債務を認識しているのが被害者のみであることに乗じ、殺害によって支払を免れようとした。被告人が加えた暴行は被害者を人事不省に陥らせるものであり、反抗を抑圧するに足りる。これにより、被害者は事実上支払の請求をすることが不可能な状態に置かれたといえる。処分行為の存在は不要であるため、被害者を殺害(未遂)して請求不能の状態を作り出した以上、財産上の不法な利益を得たものと評価できる。
結論
被告人の所為は、債務免脱目的の暴行により不法な利益を得るものとして2項強盗罪の構成要件に該当し、強盗殺人未遂罪(刑法240条後段、243条、236条2項)が成立する。
実務上の射程
本判決は処分行為不要説を確定させた重要判例である。答案上、2項強盗の成否を論ずる際は、まず1項強盗と同様に「反抗抑圧」を基準とし、処分行為を介さずとも事実上利益を確定させれば足りる旨を明示すべきである。特に殺人によって債務を免れる事案(強盗殺人)の基本枠組みとして活用される。
事件番号: 昭和31(あ)4203 / 裁判年月日: 昭和32年8月1日 / 結論: 棄却
人の金員を強取しかつその現場で同人を殺害しようと企て、実行に著手したが、強取の目的も殺害の目的も遂げなかつたという場合には、刑法第二四三条第二四〇条後段の強盗殺人未遂罪の一罪として処断すべきである。
事件番号: 昭和25(れ)1594 / 裁判年月日: 昭和26年3月6日 / 結論: 棄却
所論検証並びに証人尋問の日時、場所の変更を検察官に通知したことの明らかな証拠が、記録に存しないことは所論のとおりである。しかし、証人尋問や検証の日時、場所を検察官に通知するについては如何なる方法によるもの差支えないものであり、その通知の事実を記録に留めることは必ずしも必要ではないのであるから、その通知の明らかな証拠が記…
事件番号: 昭和32(あ)3259 / 裁判年月日: 昭和33年6月24日 / 結論: 棄却
婦女を強姦した上所持品を強取しようと決意し、まずその前頸部を扼して失神させ被害者の自転車を隠す等の行為に出で、強姦の点は未遂に終つた後即時犯行の発覚をおそれて殺意を生じ殺害した場合は、刑法第二四〇条後段、第二四一条前段、第二四三条、第五四条第一項前段を適用すべきものである