婦女を強姦した上所持品を強取しようと決意し、まずその前頸部を扼して失神させ被害者の自転車を隠す等の行為に出で、強姦の点は未遂に終つた後即時犯行の発覚をおそれて殺意を生じ殺害した場合は、刑法第二四〇条後段、第二四一条前段、第二四三条、第五四条第一項前段を適用すべきものである
強盗強姦未遂と強盗殺人との競合
刑法240条,刑法241条,刑法243条,刑法54条1項
判旨
強姦及び金品強取を企てて暴行を加えた後、強姦が未遂に終わった段階で、犯行発覚を免れるために殺意を生じて殺害し財物を領得した場合、強盗殺人罪(刑法240条後段)と強姦未遂罪(241条前段、243条)が成立し、これらは観念的競合(54条1項前段)の関係に立つ。
問題の所在(論点)
強姦及び強盗(金品強取)を目的とした一連の暴行過程において、強姦が未遂に終わり、その後に殺意が生じて強盗殺人が既遂となった場合、いかなる罪名が成立し、どのような罪数関係になるか。
規範
当初から強姦及び強盗の目的を有して暴行を開始し、強姦が未遂に終わった後で、別途殺意を生じて殺害に至り、かつ財物を強取した場合には、強盗殺人罪と強姦未遂罪が成立する。一つの暴行・脅迫等の実行行為が、強盗(殺人)の手段であると同時に強姦の手段ともなっている場合には、これらは1個の行為が複数の罪名に触れるものとして、観念的競合として処理される。
重要事実
被告人は、当初から通行中の婦女を襲い、強姦した上で金品を強取しようと企てた。具体的には、被害者を強姦した上で自転車等の金品を強取しようと決意し、前頸部を圧迫して失神させ、自転車を隠す等の行為に及んだが、強姦は未遂に終わった。その後、被告人は犯行の発覚を恐れて殺意を生じ、被害者を殺害して財物を強取した。
事件番号: 昭和26(れ)1636 / 裁判年月日: 昭和26年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強盗と強姦をあらかじめ併せて敢行しようと企図した上で、一連の行為としてこれらを行った場合、それらの罪は一罪(強盗強姦罪等)として評価され得ると解される。 第1 事案の概要:被告人は、あらかじめ強盗と強姦の両罪を併せて敢行しようと企てた上で、実際にこれらの行為に及んだ。原判決では、この計画性を証拠に…
あてはめ
被告人は、強姦と強盗の両方を目的として当初の暴行(頸部圧迫)を開始している。強姦の点は未遂に終わっているが、その後に生じた殺意に基づく殺害行為と財物強取により強盗殺人罪が成立する。これらの行為は、当初の包括的な犯行計画および一連の暴行過程において密接に関連しており、強姦未遂罪と強盗殺人罪は、一つの実行行為が重なり合っていると評価できる。したがって、刑法240条後段および241条前段(未遂)を適用し、これらを観念的競合(54条1項前段)とするのが相当である。
結論
被告人には強盗殺人罪と強姦未遂罪が成立し、これらは観念的競合となる。
実務上の射程
強盗強姦(現在の強制性交等強盗)の事案において、死の結果が発生した場合や殺意があった場合の罪数処理を示す。特に「一つの暴行」が強盗と強姦の両方の手段となっている場合、観念的競合(吸収説ではなく科刑上一罪)となる点に実務上の意義がある。なお、現行刑法下での条文適用(240条、241条)においても、この罪数判断の枠組みは維持されている。
事件番号: 昭和31(あ)4203 / 裁判年月日: 昭和32年8月1日 / 結論: 棄却
人の金員を強取しかつその現場で同人を殺害しようと企て、実行に著手したが、強取の目的も殺害の目的も遂げなかつたという場合には、刑法第二四三条第二四〇条後段の強盗殺人未遂罪の一罪として処断すべきである。
事件番号: 昭和40(あ)2002 / 裁判年月日: 昭和40年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強盗の機会に殺意をもって人を死傷させた場合であっても、刑法240条(強盗致死傷罪)のみが成立し、同条と殺人罪等との観念的競合とはならない。また、強盗が強姦のうえ殺意をもって人を死亡させた場合も、刑法241条後段(強盗強姦殺人罪)が成立し、殺人罪等を包含する。 第1 事案の概要:被告人が、強盗の際に…
事件番号: 昭和26(あ)2474 / 裁判年月日: 昭和26年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強盗殺人罪(刑法240条後段)の成立には、強盗の機会に殺意をもって人を死亡させた場合も含まれ、当初から殺害して金品を強取する意思で犯行に及んだ場合であっても同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、以前から自分を馬鹿にしてきたAに対し、自殺する前にAを殺害して道連れにし、そのついでにA方から金…