選挙前一年以来引き続き発行している第三種郵便物の許可ある句刊新聞である「A情報」の地方版の号外であると名をかり、「A情報」という名称の下に、特定の候補者に当選を得しめる趣旨の文書を印刷しこれを無償で選挙民に配布する所為は、公職選挙法第一四二条の法定外の文書を頒布する場合にあたる。
公職選挙法第一四二条の法定外文書の頒布にあたる事例。
公職選挙法142条,公職選挙法148条,公職選挙法148条の2第3項,公職選挙法235条の2第3号
判旨
既存の新聞の号外を称する文書であっても、発行主体、配布対象・方法、外観、内容等を総合的に考慮し、新聞紙としての実態を欠く場合には、公職選挙法142条が頒布を禁止する「選挙運動のために使用する文書図画」に該当する。
問題の所在(論点)
既存の新聞紙の「号外」として作成・頒布された文書が、公職選挙法142条1項により頒布が禁止される「選挙運動のために使用する文書図画」に該当するか、あるいは同法148条1項の「新聞紙」として許容されるかが問題となる。
規範
公職選挙法148条3項の定める新聞紙の自由の例外(同法142条の頒布制限の適用除外)を受けるためには、形式的に新聞の名称や号外であることを称するだけでなく、発行権限を有する者の関与、従来の購読者への配布、通常の発行・配布形態の維持、及び内容の客観性といった「新聞紙としての実態」を総合的に備えている必要がある。
重要事実
被告人Eは、第三種郵便認可のある旬刊新聞「A情報」の地方版発行権限者や本社経営者に無断で、同紙「号外」と称する文書を作成した。被告人Fと共謀し、従来の購読者ではない選挙区の一般民衆に対し、郵送ではなく労務者を使って無償配布した。当該文書は従来のガリ版とは異なる活版印刷であり、内容は特定候補者の当選を目的として投票を呼びかけるものであった。
あてはめ
本件文書は、(1)新聞社の経営者らが関知せず被告人が独断で名称を冒用した点、(2)配布先が購読者ではなく不特定多数の一般民衆である点、(3)配布方法が通常の郵送ではなく労務者による手渡しである点、(4)外観が従来のガリ版から活版へ変更され無償配布された点、(5)内容が特定候補者への投票を勧誘する選挙運動に特化している点、を総合すれば、新聞紙としての実態を欠く。したがって、本件文書は法定外の文書図画に該当すると判断される。
結論
本件文書は公職選挙法142条の頒布制限を受ける文書図画に該当し、被告人らの行為は同条違反を構成する。上告を棄却する。
実務上の射程
選挙運動における文書頒布規制(142条)と表現の自由・報道の自由(148条)の調整を判断する際、形式的名称ではなく「発行の実態」を重視する基準として機能する。答案上は、既存メディアの脱法的な利用を否定する際の考慮要素(主体・対象・方法・態様・内容)を導出する際に有用である。
事件番号: 昭和36(あ)2474 / 裁判年月日: 昭和37年5月29日 / 結論: 棄却
一 被告人の本件所為をもつて法定外文書の頒布に当るとした原判示は正当である。 (原判決の要旨) 二 本件文書(何れもビラ)は横約四〇糎、縦約一二〇糎の白地の洋紙に「期必勝A」と墨書(但し◎及びふりがなは朱書)したもので、文書の外形、内容自体(特に候補者の姓名にふりがなまで附して表示している点)からみて選挙運動に使用する…