一 第一審判決が、被告人は威力を用いて日本国有鉄道(以下国鉄と略称する)の貨物運行業務を妨害した旨の事実を認めながら、刑法第二三四条の業務には国鉄の貨物運行業務の如き公務を含まないものと解して無罪を言い渡した場合において、控訴裁判所が同条の業務中には公務も含まれるものと解し、「第一審判決は法律の解釈適用を誤つた」ものとしてこれを破棄し、自からは何等事実の取調をすることなく、ただ訴訟記録および第一審において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について、第一審判決の確定した事実と具体的に同一性を有する威力業務妨害の犯罪事実を認定して有罪の言渡をしても、刑訴第四〇〇条但書に違反しない。 二 国鉄の行う事業ないし業務は刑法第二三三条、第二三四条の業務妨害罪の対象となる。
一 刑訴法第四〇〇条但書に違反しない事例 二 国鉄の事業ないし業務は業務妨害罪の対象となるか
刑訴法400条但書,刑法233条,刑法234条,日本国有鉄道法2条,日本国有鉄道法3条,日本国有鉄道法34条
判旨
公務員による職務の執行であっても、強制力を行使する権力的作用を伴わない現業的業務については、刑法233条および234条の「業務」に含まれ、業務妨害罪が成立し得る。
問題の所在(論点)
刑法233条(偽計業務妨害罪)および234条(威力業務妨害罪)にいう「業務」に、国鉄職員による鉄道運行業務のような「公務」が含まれるか。特に、公務執行妨害罪(95条)との関係が問題となる。
規範
刑法233条、234条にいう「業務」には、公務も包含される。ただし、権力的ないし支配的作用を伴う本来の公務(警察官の職務執行等)は除外される。一方で、国鉄の鉄道事業のように、その実態が民営鉄道と異ならない非権力的・現業的な業務については、法令上公務とされ職員が政府職員に準ずる扱いを受けていても、同条の「業務」に該当する。
重要事実
日本国有鉄道(国鉄)による石炭輸送を阻止するため、被告人らは共謀の上、多数の組合員を動員。被告人Dは走行中の貨物列車の前方に立ち塞がり、赤旗を振って障害物の存在を仮装して列車を停止させた。さらに、約30名の組合員とともに機関車直前の線路上にスクラムを組んで立ち塞がり、1時間にわたり労働歌を合唱するなど多衆の威力を示し、貨車の運行を不能にした。
あてはめ
国鉄は公法人であり職員は法令上公務に従事する者とされるが、その業務内容は運輸を目的とする鉄道事業であり、民営鉄道と実態において何ら異ならない。高度の公共性はあるものの、権力的・支配的作用を伴うものではないため、民営鉄道が「業務」とされる以上、国鉄の現業業務を「業務」から除外する合理的理由はない。したがって、威力を用いて貨物列車の運行を停止・不能にさせた行為は、威力業務妨害罪を構成する。
結論
国鉄の貨車運行業務は刑法234条の業務に含まれる。被告人Dの所為に威力業務妨害罪を適用した原判決は正当である。
実務上の射程
「公務」と「業務」の峻別基準として、権力的作用(警察、徴税等)か非権力的作用(現業的公務)かを区別する際のリーディングケース。答案では、公務に対する妨害行為につき、まず公務執行妨害罪の成否を検討し、暴行・脅迫に至らない威力等の場合には、本判決の枠組みを用いて業務妨害罪の成否を論じる。
事件番号: 昭和45(あ)2373 / 裁判年月日: 昭和49年7月16日 / 結論: 棄却
被告人が、A労働組合組合員約一五〇名と共謀し、多数乗客を乗せて駅に入構した旅客列車の前方斬条上に共にスクラムを組んでうずくまるなどし、また乗務員をその腕を抱えるなどして強いて下車させ、これによつて午後八時ころから同八時四四分ころまでの間右列車の発進を不能ならしめた所為は、その目的が原認定(原判文参照)のとおりであり、右…
事件番号: 昭和43(あ)1684 / 裁判年月日: 昭和45年7月21日 / 結論: 棄却
公共企業体等労働関係法一七条一項に違反してなされた争議行為についても、労働組合法一条二項の適用がある。