所論の本件公訴事実と原審認定事実とは基本的事実関係としては、いずれも同一物件について車票の差換による不法領得という同一行為に関するものであつて、一は所論の日時場所における貨車の転送をもつて窃盗既遂として起訴し他の転送先の駅又は倉庫で管理者より騙取し又は騙取しようとしたと認定したのは単に占有関係の法的価値評価を異にした結果にすぎない。それ故原審認定事実と公訴事実は同一性を失うものではなく所論は理由がない。
公訴事実の同一性が認められる一事例
旧刑訴法291条,旧刑訴法410条18号,刑法235条,刑法246条1項
判旨
公訴事実と裁判所が認定した事実が、同一の物件に対する不法領得という同一の行為に関するものである限り、占有の有無や罪名等の法的評価を異にしても公訴事実の同一性は失われない。
問題の所在(論点)
窃盗罪として起訴された事実に対し、裁判所が詐欺罪(または同未遂罪)と認定する場合に、両者の間に「公訴事実の同一性」が認められるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、基本的事実関係において、同一の物件を対象とした同一の行為に関するものであるか否かによって判断される。単に占有関係の法的価値評価や、既遂・未遂といった罪名の評価が異なるにすぎない場合には、事実の同一性は維持される。
重要事実
被告人らは、肥料を積載した貨車の車票を密かに差し替え、鉄道係員を欺いて偽の目的地に転送させた。検察官はこれを「鉄道係員を道具として利用した窃盗罪」として公訴を提起したが、原審は「駅長らを欺罔して肥料を騙取しようとした詐欺未遂罪および詐欺既遂罪」と認定した。弁護人は、窃盗と詐欺では事実の同一性がないと主張して上告した。
事件番号: 昭和28(あ)4855 / 裁判年月日: 昭和30年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪において、公訴事実と判決で認定された事実との同一性は、欺罔の態様や被害金額等の個別的な要素の差異にかかわらず、社会的事実としての一回性を有する限り肯定される。 第1 事案の概要:本件において、上告人は詐欺罪に問われていたが、起訴状に記載された事実と裁判所が認定した事実に一定の相違があった。弁…
あてはめ
本件の公訴事実と認定事実は、いずれも「貨車の車票差換えによる肥料の不法領得」という同一の行為を対象としている。検察官は貨車の転送をもって占有を奪った(窃盗)と評価し、裁判所は駅長らを欺いて交付させた(詐欺)と評価したが、これは単に「占有関係の法的価値評価を異にした結果」にすぎない。したがって、基本的事実関係において両者は同一といえる。
結論
公訴事実の同一性は失われない。したがって、訴因変更の手続等を経ていることを前提に、窃盗の起訴事実から詐欺罪を認定することは許容される。
実務上の射程
訴因変更の限界(事実の同一性)を判断する際、単なる法的評価の差異(窃盗か詐欺か、既遂か未遂か)は同一性を否定する理由にならないことを示す。もっとも、本判決は旧法下のものであるが、現行法下でも「基本的事実関係の同一性」を判断する際の重要判例として活用できる。
事件番号: 昭和39(あ)125 / 裁判年月日: 昭和39年8月20日 / 結論: 棄却
一 本件収賄と詐欺の両訴因については、事実の同一性を有するものと認められる。 二 (収賄の訴因)被告人は、Aが神戸市土地区画整理事業の対象となつた同市a区bc丁目d番地の八所在同人所有の土地約四十一坪につき、神戸市に対し右所有地を換地用地として買収方を希望しており、同人により右買収価格の査定につき寛大有利な取扱いを受け…