一 被告人は家畜商を営むものであるが、昭和二五年七月二五日頃家畜商Aより同人所有の馬四頭の売却方を依頼され、同月二九日うち二頭をBに代金六万円で売却しこれを保管中、同月三〇日新潟県西蒲原郡a町C旅館において、内金三万円を着服して横領をしたとの業務上横領の訴因と、被告人は昭和二五年七月三新潟県西蒲原郡b村大字cD方から同人が一時Aより預つていたAの父E所有の牝馬鹿毛および青色各一頭を窃盗したとの窃取の訴因とは、事実の同一性を失わない。 二 第一次第一審において、右業務上横領の訴因を右窃盗の訴因に変更し後者につき有罪を認定したところ、第二審において、右は事実の同一性を欠くとしてこれを破棄、移送したため、第二次第一審において、右破棄判決の判断に従い検察官から右窃盗の訴因と同一内容の別訴が提起され、併合審理された結果、窃盗につき有罪、業務上横領はその不可罰的事後行為であるとして無罪が言渡されたが、第二次第二審を経た上告審において、右破棄判決の判断は誤りで事実の同一性があり、第二次第一審における別訴の提起は実質において訴因変更の趣旨であると解される以上、二重起訴の違法はない。
一 公訴事実の同一性の認められる事例−業務上横領と窃盗 二 同一事実に対する別訴の提起が二重起訴にあたらないとされた事例
刑訴法312条,刑訴法256条,刑訴法338条3号,刑訴法337条,刑法253条,刑法235条
判旨
「公訴事実の同一性」は、同一被害者に対する一定の物とその換価代金を中心とする不法領得行為であり、一方が有罪となれば他方が不可罰行為となる関係にあれば認められる。また、同一性のある事実について別件で公訴が提起された場合でも、先行する差戻判決の拘束力に従った等の経緯があれば、実質的に訴因変更の趣旨と解して二重起訴にあたらないとされる。
問題の所在(論点)
1. 「馬の売却代金の着服(業務上横領)」と「馬自体の窃取(窃盗)」に公訴事実の同一性が認められるか。 2. 同一性がある場合において、別件として公訴が提起されたことは二重起訴にあたり、公訴棄却すべきか。
規範
1. 公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項等)は、基本的事実関係が同一であることを要し、具体的態様に差異があっても、不法領得の対象(物とその代金)や被害者が共通し、一方が成立すれば他方が不可罰的行為となるような密接な関係にある場合には肯定される。 2. 既に公訴提起がある事件につき更に同一裁判所に公訴が提起された場合(同法338条3号)であっても、その公訴提起が先行する裁判所の判断(差戻判決等)に従って行われたという経緯があるときは、実質的に「訴因変更」の趣旨と解することができ、二重起訴にはあたらない。
重要事実
被告人は馬2頭の売却を依頼され代金を着服したとして「業務上横領」で起訴された。第一審は、事実の同一性があるとして「窃盗」への訴因変更を許可し有罪としたが、控訴審は同一性がないとして破棄移送した。これを受け検察官は、移送先の裁判所に「窃盗」として別件で公訴を提起した。第二次第一審は窃盗を有罪、業務上横領を無罪としたが、被告人は窃盗の公訴提起は二重起訴(刑訴法338条3号違反)にあたり無効であると主張して上告した。
あてはめ
1. 両事案は、同一被害者に対する一定の物とその換価代金を中心とする不法領得行為である。場所や態様に差異はあるが、一方が有罪なら他方が不可罰的行為となる関係にあり、基本的事実関係は同一であるため、公訴事実の同一性が認められる。 2. 窃盗の公訴提起は、同一性を否定した先行する差戻判決の判断に従って行われたものである。この経緯に照らせば、本件公訴提起は実質的に訴因変更の趣旨と解することができる。したがって、形式的には別個の起訴であっても二重起訴にはあたらず、適法な公訴提起として受理できる。
結論
本件窃盗の公訴提起は実質的な訴因変更として適法であり、二重起訴にはあたらない。また、一方が確定したとしても他方への免訴事由とはならず、原判決の有罪維持は正当である。
実務上の射程
訴因変更の限界(同一性)の判断基準を示すとともに、二重起訴禁止の例外的な救済法理(実質的訴因変更論)を示した。司法試験上は、公訴事実の同一性の定義(「基本的事実関係の同一」)の具体例として、また手続の誤りがあった際の後続手続の有効性を論じる際の参照判例として重要である。
事件番号: 昭和25(あ)594 / 裁判年月日: 昭和26年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法39条は、確定判決を経た犯罪と併合罪の関係にある別個の犯罪について、再度起訴し処罰することを禁止するものではない。併合罪の関係にある複数の犯罪を各別に起訴し審判することは、公訴権行使の当不当の問題を生じ得るとしても、直ちに裁判を違法とする理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人は、既に確定…