刑訴第一四六条にいう「刑事訴追を受ける虞あるとき」とは、証言の内容自体に刑事訴追を受ける虞のある事実を包含する場合をいうのであつて、証人が真実を述べることにより其の供述を偽証なりとして訴追を受ける虞ありとの事由で、証言を拒否し得るものではない。
刑訴第一四六条にいう「刑事訴追を受ける虞あるとき」の意義
憲法38条1項,刑訴法146条,刑法169条
判旨
刑事訴訟法146条にいう「刑事訴追を受ける虞」とは、証人の過去の経験事実を述べる際に、その内容自体に刑事訴追を受けるおそれのある事実を包含する場合を指し、証言が真実であっても将来偽証罪に問われるおそれがあるという理由はこれに含まれない。
問題の所在(論点)
証人が真実を述べた場合に、その証言が虚偽であると疑われて偽証罪の訴追を受けるおそれがあることが、刑事訴訟法146条の「刑事訴追を受ける虞」に該当し、証言拒絶権の根拠となるか。また、その解釈は憲法38条1項(自己負罪拒絶特権)に照らし許容されるか。
規範
刑事訴訟法146条(自己負罪拒絶特権)の「刑事訴追を受ける虞」とは、証人が過去の経験事実を述べるに際し、その「証言の内容自体」に自己が刑事訴追を受けるおそれのある事実を包含する場合をいう。真実を述べた場合に将来的に偽証罪の訴追を受けるおそれがあるという事情は、これに含まれない。
重要事実
証人尋問において、証拠調べに関する異議の申立てがなされた。その際、証人が真実を述べようとする場合に(証言の内容が虚偽であると疑われて)偽証罪の訴追を受けるおそれがあるとして、同法146条に基づき証言を拒絶し得るかどうかが争点となり、原審はこれを否定して申立てを棄却した。これに対し、憲法38条1項違反等を理由として特別抗告がなされた。
事件番号: 昭和28(し)19 / 裁判年月日: 昭和28年10月23日 / 結論: 棄却
刑訴第一四六条にいう「刑事訴追を受ける虞あるとき」とは、証言の内容自体に刑事訴追を受ける虞のある事実を包含する場合をいうのであつて、証人が真実を述べることによりその供述を偽証なりとして訴追を受ける虞ありとの事由で、証言を拒否し得るものではない。
あてはめ
刑事訴訟法146条の趣旨は、自己に不利益な供述を強制されない点にある。本件において、証人が主張する偽証罪の訴追可能性は、証言内容そのものが犯罪を構成する過去の事実を包含しているわけではない。あくまで「真実を述べようとしている場合」における将来的な訴追の危惧にすぎず、同条が予定する「内容自体に刑事訴追を受ける虞のある事実を包含する場合」には当たらない。したがって、これを理由とする証言拒絶は認められないと解するのが正当である。また、この解釈は憲法38条1項の趣旨にも反しない。
結論
真実を述べようとしている場合に偽証罪の訴追を受けるおそれがあるとしても、刑事訴訟法146条の証言拒絶権は認められない。
実務上の射程
刑事訴訟法146条の「刑事訴追」の対象が「証言対象となった過去の犯罪事実」に限定されることを明示した判例である。答案上は、偽証罪のみならず、当該証言をすることによって将来的に生じうる刑事責任一般を理由に証言拒絶が主張された場合、本判例の「証言の内容自体に包含」という規範を用いて、拒絶の可否を論じる際の基準として活用できる。
事件番号: 昭和28(し)23 / 裁判年月日: 昭和28年4月7日 / 結論: 棄却
「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。」のであるから(刑訴一四六条)、被告人と共犯関係があるものとして起訴されている者が証人となつても、自身の公訴事実について不利益な証言を強要されることにはならない。
事件番号: 昭和28(し)64 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項の証人尋問権は受訴裁判所の訴訟手続における保障であり、捜査段階の証人尋問には適用されない。そのため、弁護人の立会いなく行われた刑訴法228条の証人尋問手続は憲法違反ではない。 第1 事案の概要:検察官は、刑事訴訟法227条に基づき証人Aの尋問を裁判官に請求した。当時、被疑者には既に弁…
事件番号: 昭和28(し)65 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法227条に基づく捜査上の証人尋問に弁護人が立ち会わなかったとしても、憲法37条2項の証人尋問権は受訴裁判所の公判手続を保障するものであり、捜査段階の手続には及ばないため、憲法違反とはならない。 第1 事案の概要:検察官が刑事訴訟法227条に基づき裁判官に対し証人尋問を請求した際、被疑者等…
事件番号: 昭和28(し)62 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は受訴裁判所の公判手続における証人尋問権を保障するものであり、捜査段階の証人尋問(刑訴法228条)において弁護人の立会いを任意としたとしても、直ちに同条項に反するものではない。 第1 事案の概要:検察官が刑訴法227条に基づき証人Aの尋問を請求した際、被疑者には既に弁護人が付されてい…