強姦の手段としての共同暴行の事実のみが暴力行為等処罰に関する法律違反として起訴された事件につき、右強姦の事実は証拠上これを明認し得るけれども、起訴にかかる暴力行為等処罰に関する法律違反の事実は、右強姦行為の手段としてなされた共同暴行の事実であるから、強姦の事実につき、既に告訴の取消があつた以上、強姦罪として公訴を提起し得ないことは勿論右暴行行為のみを抽出してこれが公訴を提起することも許されないという理由で公訴棄却の判決がなされた場合は、刑事補償の請求は理由がない。
刑事補償法第二五条第一項にあたらない事例
刑事補償法25条1項,刑事補償法16条
判旨
刑事補償法25条に基づき、公訴棄却の裁判を受けた者が補償を請求するためには、公訴棄却の事由がなかったならば無罪の裁判を受けるべき十分な事由がある場合に限られる。
問題の所在(論点)
刑事補償法25条にいう「公訴棄却の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由」の存否が問題となる。本件のように、告訴取消しという訴訟条件の欠缺を理由に公訴棄却となった場合に、実体的な犯罪事実が認められるときでも補償が認められるか。
規範
刑事補償法25条は、公訴棄却の裁判を受けた者に対し、抑留または拘禁による補償を認める要件として、「もし公訴棄却の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由がある場合」に限ると規定している。これは、公訴棄却という形式的裁判によって手続が終了した場合であっても、実体的に無罪が確実視される場合にのみ国家賠償的な補償を認める趣旨である。
重要事実
請求人ら2名は、他の5名と共謀して婦女を強姦したとの被疑事実により勾留された。その後、強姦罪について告訴の取消しがあったため、検察官は強姦の手段である共同暴行の事実のみを暴力行為等処罰に関する法律違反として起訴した。第一審は、起訴事実は強姦罪の一部を構成し、告訴の取消しにより公訴権が消滅したとして公訴棄却の判決を下した。第二審は有罪としたが、最高裁は第一審を支持し、強姦の手段としての暴行のみを抽出して起訴することは許されないとして公訴棄却の判決を言い渡した。これを受けて請求人らが刑事補償を求めた事案である。
あてはめ
本件における公訴棄却の理由は、強姦罪について告訴の取消しがあったため、その手段である暴行についても独立して公訴を提起できないという訴訟条件の欠缺にある。しかし、確定判決の趣旨に照らせば、請求人らによる強姦の事実は証拠上明らかに認められる。したがって、もし仮に「告訴の取消し」という公訴棄却事由がなかったならば、裁判所は強姦罪として審判を行い、当然に有罪の判決を言い渡すべきであったといえる。そうである以上、請求人らが「無罪の裁判を受けるべき充分な事由がある」とは到底認められない。
結論
本件補償請求は、刑事補償法25条の要件を満たさないため、同法16条により棄却すべきである。
実務上の射程
刑事補償法上の「無罪と認められるべき十分な事由」は、訴訟条件の欠缺等の形式的理由を除去した場合に、実体法上の罪が成立しないことが高度の蓋然性をもって認められることを要する。答案上は、公訴棄却事由の有無という仮定の状況において、実体的な犯罪成否を検討する枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和58(し)39 / 裁判年月日: 昭和58年9月27日 / 結論: 棄却
刑訴法一八八条の二第一項は、費用の補償をすべき場合を無罪の判決が確定したときに限り、公訴棄却の判決が確定したときを含まない趣旨である。
事件番号: 昭和30(し)15 / 裁判年月日: 昭和31年12月24日 / 結論: 破棄差戻
憲法第四〇条にいう「抑留又は拘禁」中には、たとえ不起訴になつた事実に基く抑留または拘禁であつても、そのうちに実質上は、無罪となつた事実の取調のための抑留または拘禁であると認められるものがあるときは、その部分の抑留および拘禁もまたこれを包含するものと解するを相当とし、刑事補償法第一条第一項の「未決の抑留又は拘禁」とは右憲…