刑事被告事件につきなされた勾留取消決定により釈放されてから、不拘束のまま、免訴判決の確定するまでの間、当該事件の被告人として被つた精神的および物質的損失につきその補償を求める請求は、刑事補償法の認めないところである。
事件が裁判所に係属中単に当該事件の被告人とされたために被つた損害に対する保障の請求の適否
刑事補償法1条,刑事補償法25条
判旨
刑事補償法25条1項に基づき免訴判決を受けた者が補償を請求するには、免訴事由がなければ無罪判決を受けるべき十分な事由が必要であり、かつ、補償対象は現実の身体拘束期間に限定される。
問題の所在(論点)
免訴判決を受けた者に対する刑事補償の要件(刑事補償法25条)の充足性と、身体拘束を伴わない期間についての補償の可否が問題となる。
規範
免訴判決を受けた者が刑事補償を請求する場合、刑事補償法25条所定の「もし免訴……の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由がある」ことが必要である。また、同法にいう「抑留若しくは拘禁」とは、現実になされた身体の拘束を指し、何ら身体の拘束を受けていない期間については補償の対象とはならない。
重要事実
請求人は、占領目的阻害行為処罰令違反の罪で起訴され、一審・二審で有罪判決を受けた。上告審において、犯罪後の刑の廃止(刑訴法337条2号)を理由に免訴判決が確定した。請求人は、逮捕から勾留取消決定により釈放されるまでの期間(昭和26年2月4日から昭和27年5月30日)の身体拘束、および釈放後から免訴判決通知受領までの期間(昭和29年4月20日まで)に要した費用等について刑事補償を請求した。
あてはめ
第一に、本案の訴訟経過や記録に照らせば、占領目的阻害行為処罰令違反の事実は認められ、免訴事由がなければ無罪の裁判を受けるべき十分な事由があるとは認められない。したがって、実体的に無罪相当とはいえず、拘禁期間の補償請求は理由がない。第二に、釈放後の期間については、現実に身体の拘束を受けていない以上、刑事補償法が定める「抑留若しくは拘禁」に該当しない。被告人としての費用負担等の損害は、同法の補償対象外である。
結論
本件刑事補償の請求は、身体拘束期間については実体的要件を欠き、釈放後の期間については補償対象外であるため、いずれも棄却されるべきである。
実務上の射程
刑事補償法25条の「無罪を受けるべき十分な事由」の解釈、および補償対象が現実の身体拘束に限定されることを示した判例。免訴・欠格事由がある場合の補償の限定性を論じる際の基礎となる。
事件番号: 昭和29(も)1 / 裁判年月日: 昭和35年6月23日 / 結論: 棄却
昭和二五年政令第三二五号違反被告事件につき抑留拘禁された被告人に対し、平和条約発効により犯罪後の法令により刑が廃止された場合にあたるとして免訴の言渡があつた場合に、刑事補償法によりその抑留拘禁(平和条約発効の日以後の勾留を含む)による補償の請求をすることはできない。