一 製紙業者が、数ヶ月にわたり、毎月その製造場から移出した製品の一部(京花紙)につき、これを所定の帳簿に記載せず、かつ所定の申告をしないで、右不正の行為により、これに対する物品税を逋脱した場合には、各月分毎に一個の物品税逋脱罪が成立する。 二 製紙業者である被告人が、数ヶ月にわたり、毎月その製造場から移出した製品の一部(京花紙)につき、これを所定の帳簿に記載せず、かつ所定の申告をしないで、右不正の行為により、これに対する物品税を逋脱したとの公訴事実につき、物品税逋脱罪の包括一罪が成立するとの趣旨で、起訴状の訴因が記載されている場合でも、起訴状に別表として犯罪一覧表が添付され、これによつて製品の各移出毎に日時、数量、価格等が明確となつているときは、訴因変更の手続を経ないで、判決において、右別表どおりの事実関係(ただし各月にまとめて)を認定したうえ各月分毎に一個の物品税逋脱罪の成立を認めても、違法ではない。
一 数ヶ月にわたる物品税逋脱行為と罪数 二 一罪の訴因につき訴因変更の手続を経ないで数罪を認定しても違法でない事例
物品税法(昭和25年法律第286号による改正前のもの)18条,物品税法(昭和25年法律第286号による改正前のもの)21条,刑訴法256条2項,刑訴法256条3項,刑訴法256条4項,刑訴法312条
判旨
捜査官等による取調べにおいて、黙秘権(自己負罪拒否特権)があることをあらかじめ告知することは、憲法38条1項により要求されているものではない。したがって、黙秘権の告知がないままなされた供述であっても、直ちに強要されたものとはいえない。
問題の所在(論点)
捜査官や収税官吏が被疑者を取調べる際、あらかじめ黙秘権があることを告知することが憲法38条1項によって要求されているか。また、告知がない場合の供述が直ちに「強要された供述」にあたるか。
規範
憲法38条1項は、被疑者や被告人に対し、自己に不利益な供述を強要されない権利を保障しているが、捜査官等が取調べに際してあらかじめ黙秘権の存在を告知すべきことまでを憲法上の要請として定めたものではない。
重要事実
被告人は物品税逋脱罪の疑いで収税官吏による取調べを受けた。その際、収税官吏は被告人に対し、あらかじめ黙秘権がある旨の告知を行わなかった。被告人は、このような告知を欠いた状態での取調べに基づく供述は憲法38条1項に違反し、強要されたものであるとして争った。また、併せて物品税逋脱罪の罪数および訴因変更の要否についても争点となった。
あてはめ
憲法38条1項の趣旨に照らせば、同条は供述を強制することを禁じるものであり、事前の権利告知そのものを憲法上の必須要件としているわけではない。本件において、収税官吏が黙秘権の告知を行わなかったという事実のみをもって、直ちにその供述が憲法上の禁じる『強要された供述』に該当すると断定することはできない。よって、告知を欠いた状態で行われた取調べの手続およびそれに基づく供述の証拠能力について、憲法違反の主張は前提を欠くものである。
結論
捜査官等による黙秘権の告知は、憲法38条1項によって直接要求されているものではない。そのため、告知がなかったとしても直ちに供述の任意性が否定されるわけではなく、憲法違反にはあたらない。
実務上の射程
本判決は憲法解釈として黙秘権告知の憲法上の要請を否定したものであるが、現在の刑事訴訟法198条2項が取調べに際しての黙秘権告知を法律上の義務として明文で定めている点に留意が必要である。答案上では、憲法38条の保障内容と刑事訴訟法上の手続的保障を区別して論じる際に参照すべき判例である。
事件番号: 昭和57(あ)666 / 裁判年月日: 昭和58年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】収税官吏が犯則嫌疑者に対し、質問にあたって供述拒否権をあらかじめ告知しなかったとしても、その質問手続が憲法38条に違反するものではなく、その供述が直ちに任意性を失うこともない。 第1 事案の概要:収税官吏(大蔵事務官)が犯則嫌疑者であった被告人Aに対し、質問調査を実施した。その際、収税官吏は被告人…