架空人名義の簡易保険申込書を作成した場合でも、それが当局のみならず一般人をして真正に作成された文書と誤信せしめる危険があるときは、私文書偽造財が成立する。
架空人名義の簡易保険申込書作成と私文書偽造罪の成否
刑法159条1項
判旨
架空人名義を用いた文書作成であっても、実在する名義人が作成した真正な文書であると一般人に誤信させるおそれがある場合には、私文書偽造罪が成立する。
問題の所在(論点)
作成された名義人が実在しない「架空人」である場合であっても、私文書偽造罪が成立するか。
規範
有印私文書偽造罪(刑法159条1項)における「偽造」とは、作成権限がないのに他人名義を冒用して文書を作成することをいう。名義人が架空人であっても、その名義が巷間にありふれたものであり、実在の者が真正に作成した文書であると一般人に誤信させるに足りる危険性(公共の信用を害するおそれ)がある場合には、同罪が成立する。
重要事実
郵便局長である被告人が、簡易保険の募集ノルマを達成したように装うため、架空人名義の保険申込書を作成した。被告人は、局備付の正規の申込用紙を使用し、ありふれた氏名を署名欄に記入した上で、三文判等を押印した。さらに、これらを真正な申込書として一括して簡易保険局に送付し、受理させた。
事件番号: 昭和25(れ)1335 / 裁判年月日: 昭和26年5月11日 / 結論: 棄却
一 原判決の確定した判示第一の事実は被告人はA外十名の預金者から貯金の払戻その他の為同人等名義の貯金通帳を預つていたのでこれを使用して同人等名義の郵便貯金払戻証書を偽造行使したというのであつて、右A名義の郵便貯金払戻証書は被告人が生存中のAから預つた郵便貯金通帳と共にこれを行使する目的でこの通帳に基いて作成したものであ…
あてはめ
本件で被告人が用いた名義は架空のものではあるが、巷間にありふれた氏名であり、被告人はあたかも実在する者が作成したかのように装っている。また、正規の申込用紙を使用し、実在する者の申込書と同様に取り扱っていることから、当局のみならず一般人をして「実在する者が真正に作成した文書」と誤信させるおそれが十分にある。実在人名義の冒用と比較しても、文書に対する公共の信用を害する危険性において何ら区別はないといえる。
結論
架空人名義であっても、一般人に真正な文書と誤信させる危険がある以上、私文書偽造罪を構成する。被告人の行為について同罪の成立を認めた原判断は正当である。
実務上の射程
文書偽造罪の保護法益が「文書に対する公共の信用」にあることを強調する。死者名義や架空人名義であっても、形式的に一般人の信頼を裏切る外観を備えていれば偽造となり得ることを示す論証として重要である。
事件番号: 昭和23(れ)676 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
架空の者を代表者として、実在する会社名義の契約書及び領収書を作成する行為は、私文書偽造罪を構成する。
事件番号: 昭和28(あ)1481 / 裁判年月日: 昭和34年6月12日 / 結論: 棄却
行使の目的を以つて、擅に設立中の会社名義の売買契約書を作成したときは私文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。