一 開廷後、裁判官がかわつた場合でも、事件の実体に関する審理をするのでなく、単に弁護人から前に許可された証人喚問の証拠調決定が必要がなくなつたとして放棄の申出をしたのに基き、その取消決定をするに止まるような場合には、その決定前に公判手続を更新する必要がない。 二 公判期日に被告人不出頭のまま開廷しても、弁護人からの証人放棄の申出に基き、前にした証拠調決定を取り消す決定をしたに止まり、事件の実体に関する審理をしなかつた場合には、刑訴第二八六条に違反しない。
一 証拠調決定を取り消す決定をするに止まる場合と更新手続の要否 二 被告人不出頭のまま開廷しても刑訴第二八六条に違反しない一事例
刑訴法315条,刑訴法286条
判旨
裁判官の変更があった場合でも、証拠調べ決定の取消しのような付随的な手続については、公判手続の更新(刑訴法315条)を要しない。また、弁護人による証拠調べ請求の放棄に基づきこれを取り消す決定は、被告人の出頭や意見聴取を欠いても適法である。
問題の所在(論点)
裁判官の更迭があった場合、実体的な審理を伴わない証拠調べ決定の取消しのために公判手続の更新(刑訴法315条)が必要か。また、同決定を被告人の不出頭・意見聴取なしで行うことは許されるか。
規範
1. 裁判官の更迭に伴う公判手続の更新(刑訴法315条)は、事案の実体に関する審理を行う場合に必要となるものであり、既に決定された証人喚問の必要がなくなったとしてこれを取り消すに止まる場合は、更新手続を要しない。2. 弁護人が証拠調べ請求の放棄を申し出たことに基づく取消決定は、被告人が不出頭であっても刑訴法286条に違反せず、改めて被告人の意見を聴くことも要しない。
重要事実
被告人らの刑事事件において、裁判官が更迭された。更迭前の段階で、弁護人の請求に基づき証人喚問の証拠調べが決定されていたが、更迭後、弁護人が当該証人喚問の必要がなくなったとして放棄の申出を行った。裁判所は、検察官の意見を聴いて異議がないことを確認した上で、更新手続を行わず、かつ被告人が公判期日に不出頭のまま、先の証拠調べ決定を取り消す決定をした。
あてはめ
本件における決定は、事案の実体に関する審理を行うものではなく、弁護人の自発的な放棄の申出に基づき、単に証拠調べ決定を維持する必要がなくなったことを確認する付随的な手続に過ぎない。したがって、裁判官が交代していても、更新手続を経ていないことが刑訴法315条違反となることはない。また、弁護人が証拠請求を放棄している以上、訴訟指揮の一環としてこれを取り消すに当たり、被告人の出頭(刑訴法286条)や直接の意見聴取を待つ必要性も認められない。
結論
公判手続の更新は不要であり、被告人の不出頭や意見欠如を理由とする訴訟手続の違法は認められない。
実務上の射程
裁判官更迭時の「更新」の対象となる範囲を、実体審理に限定する基準として機能する。証拠調べの不実施(取消し)という消極的な決定については、迅速な裁判の観点から手続の簡略化を認める趣旨である。ただし、被告人の権利に重大な影響を及ぼす実体的審理については厳格に更新が求められる点に留意すべきである。
事件番号: 昭和24(れ)2686 / 裁判年月日: 昭和25年3月28日 / 結論: 棄却
判事の更迭後從前の證據決定の施行として公判廷外において證據調をするには公判手續を更新することを要しない。(大正一三年(れ)第一九五號同年四月五日大審院第四刑事部判決)