被告人に前科がないのにかかわらず、原審が前科ありとして累犯加重をした場合、前科の事実を認めうる前科調書もあり、又第一審裁判所は被告人に累犯加重の原因となる前科がないと認めたが原審の刑と同一の刑を科していたこと、被告人は本件犯行後、他の罪によつて刑に処せられたこと等の事情があるときは、原判決に刑訴第四一一条にあたる事由があるとはいえない。
刑訴法第四一一条にあたらない一事例
刑訴法411条,刑法56条,刑法57条
判旨
上告審において原判決に事実誤認の疑いがある場合でも、他の情状等を総合的に勘案して、原判決を維持することが著しく正義に反すると認められない限り、刑訴法411条による破棄はなされない。
問題の所在(論点)
上告理由に当たらない事実誤認の主張がある場合において、原判決に事実誤認の疑いがあるとき、刑訴法411条(職権破棄)を適用して原判決を破棄すべきか否かの判断基準が問題となる。
規範
刑事訴訟法411条柱書に基づき、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある場合であっても、原判決を破棄しなければ「著しく正義に反する」と認められない限り、職権による判決破棄は行われない。この判断にあたっては、被告人の他の犯罪歴や第1審の量刑判断、後の確定判決等の諸事情を参酌することができる。
重要事実
被告人は、原審において累犯加重の原因となる前科の事実を認定され、懲役6月に処された。被告人はそのような前科は存在しないと主張して上告。記録上、前科を認定し得る証拠と否定し得る証拠の両方が存在しており、事実誤認の可能性が否定できない状況であった。他方、第1審では当該前科がないものとして懲役6月の実刑を科していたほか、被告人は本件犯罪後に別の賍物牙保罪で懲役1年(執行猶予3年)等の刑に処せられていた。
あてはめ
仮に上告人の主張通り原審に前科認定の事実誤認があったとしても、以下の事情を考慮する。第一に、第1審は前科がない前提で懲役6月の実刑を科しており、原審の量刑(懲役6月)と均衡が取れている。第二に、本件後に賍物牙保罪により懲役1年の判決を受けるなど、被告人の社会的非難可能性を裏付ける事情がある。これらを参酌すると、仮に前科の認定に誤りがあったとしても、原判決の結論自体を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
本件は刑訴法411条を適用すべき場合に当たらないため、上告を棄却する。
実務上の射程
上告審における職権破棄の抑制的運用を示す。特に、判決に影響を及ぼす可能性のある事実誤認(本件では累犯加重の前提)が疑われる場合であっても、量刑の妥当性や他の事情を総合し、結論としての刑責が不当でなければ「著しく正義に反する」とはされないという実務上のハードルの高さを示している。
事件番号: 昭和26(あ)747 / 裁判年月日: 昭和26年7月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認や量刑不当の主張は、刑事訴訟法405条所定の上告理由に当たらない。また、職権による破棄事由が認められない限り、上告は棄却される。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が、原判決(第2審判決)に対して上告を提起した事案である。上告の理由として、原判決における事実認定に誤りがあること(事実誤認…