記録を調べて見ると、原審判決は、第一審判決において有罪とされた犯罪事実のうち、所論の部分を除外し、なんらの判断をせず、その余の部分についてのみ有罪とし刑を言い渡したことは所論のとおりである。しかし、原判決が第一審判決認定の有罪事実より除外した部分は、有罪とされなかつたのであるから、被告人にとつて利益であるばかりでなく、この部分は、原判決において無罪の判示がなかつたとはいえ、一たん公訴犯罪事実として、第一審の審判を受け、次で控訴審の審理を経て、有罪事実より除外された以上、この部分について、被告人は再び起訴されることはない訳である。従つて、本件については、刑訴四一一条を適用して原判決を破棄すべきものとは認められない。
刑訴法第四一一条にあたらない一事例
旧刑訴法360条,旧刑訴法362条,刑訴法411条,憲法39条
判旨
控訴審において第一審の有罪事実の一部を除外して有罪を宣告した場合、除外された部分について無罪の判示がなくても、被告人は再び起訴されることはないため、原判決に破棄すべき違法はない。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審の有罪事実の一部を除外し、それについて無罪の判示をすることなく残部のみを有罪とした場合、刑事訴訟法411条を適用して破棄すべき著しい違法があるといえるか。
規範
第一審で有罪とされた事実の一部を控訴審が有罪事実から除外した場合、その部分について明示的な無罪判決がなされていなくても、一度審判の対象となり審理を経た以上、二重処罰の禁止(一事不再理の効力)により被告人が再度起訴される不利益を被ることはない。
重要事実
被告人A株式会社、同B、同Cは、第一審において有罪判決を受けたが、これに対し控訴を申し立てた。原審(控訴審)は、第一審が有罪と認定した事実のうち、所論の一部について判断を示さず、当該部分を除外した残りの事実のみを改めて有罪として刑を言い渡した。弁護人は、一部事実を放置して有罪を宣告した原判決の違法を主張し、上告した。
あてはめ
原判決は第一審の有罪事実から特定部分を除外して判決を下しており、除外された部分は有罪とされなかったものであるから、被告人にとって利益である。また、この部分は一旦公訴事実として第一審の審判を受け、次いで控訴審の審理も経ている。したがって、形式的に無罪の判示がなくても、実質的には審理を尽くした結果として有罪から除外されたといえる。この場合、一事不再理の効力(憲法39条、刑訴法による保障)に基づき、当該部分について被告人が再び起訴される法的危険はない。ゆえに、被告人に実質的な不利益は生じていない。
結論
被告人は除外された事実について再び起訴されることはないため、原判決に刑訴法411条を適用して破棄すべき違法は認められず、上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審において訴因の一部を事実上排斥しながら無罪の主文を省略した場合の救済の必要性を否定する例として重要。実務上は、理由中で一部無罪の判断を示しつつ主文で有罪部分のみを宣告する判決構成の許容性を裏付ける。答案上は、訴訟条件や既判力(一事不再理効)の範囲を論じる際の補強材料として利用できる。
事件番号: 昭和27(あ)4620 / 裁判年月日: 昭和29年5月21日 / 結論: 棄却
第一審判決認定の事実は、所論検察官の被告人に対する供述調書(刑訴三二八条の証拠として取調の請求があり、取調のあつたもの)を除いてもその他の同判決挙示の各証拠により認定することができるのであるから、仮りに所論のごとき違法ありとしても原判決に影響を及ぼさないものである。