原判決が証拠に基き適法に確定したところによれば、被告人の本件侵入行為は団体交渉のためではなく、被告人の属するA労働組合でない他の組合である判示B化学工業株式会社D工業所の労働組合の争議に対する激励のためのデモ敢行のためであり、また、本件工場内にはいわゆる賠償工場に指定されているものも点在し前日における再三に亘るデモ隊の行進状況から見て使用者側が右賠償工場等にいかなる危険の及ぶかも測られぬことも危惧して正門を閉ざすことも巳むを得ないところであつて、使用者側が正門を閉してデモ隊の入門を拒否し得る特別の事情があつたのでこれを拒否したところ、被告人等デモ隊員の或る者は工業所人事課調査係員Cの左頬をなぐりその奥歯が折れるような暴行を加え、そのことから双方乱闘に入り斯くて被告人等は同工業所の正門(鉄さく高さ五尺位)を乗り越えて同所構内に侵入した場合には建造物侵入罪を構成する。
労働争議に対する激励行為を逸脱した構内侵入と建造物侵入罪の成立
憲法28条,刑法130条,労働組合法(昭和24年法律174号による改正前)1条,労働組合法(昭和24年法律174号による改正前)10条,労働関係調整法6条
判旨
労働組合が他組合の争議を激励するデモの目的であっても、使用者が管理権に基づき正当に入門を拒否し得る特別の事情がある場合に、門を乗り越えて工場構内に侵入する行為は、権利の範囲を逸脱し違法である。
問題の所在(論点)
他組合の争議激励を目的としたデモに際し、会社側の入門拒否を無視して正門を乗り越えて工場に立ち入る行為が、刑法130条前段の建造物侵入罪(または邸宅侵入罪)における「正当な理由」のある行為として違法性を阻却されるか。
規範
表現の自由や争議権の行使を背景とする行為であっても、管理者の意思に反して立ち入る行為が正当化されるためには、その行為の目的、必要性、態様、および管理者が立ち入りを拒否する合理的理由の有無を総合的に考慮すべきである。特に、使用者が施設管理権に基づき入門を拒否し得る「特別の事情」がある場合には、それを強行して侵入する行為は権利の範囲を逸脱し、正当な業務行為として違法性が阻却されることはない。
重要事実
被告人は、自身の所属しない他組合の争議を激励する目的でデモを敢行した。対象となった工場には賠償工場に指定された施設が点在しており、前日のデモ状況から危険を危惧した会社側は正門を閉鎖して入門を拒否した。これに対し、被告人らデモ隊は係員に暴行を加えて乱闘となり、高さ約5尺(約1.5メートル)の鉄柵(正門)を乗り越えて工場構内に侵入した。
あてはめ
本件では、目的が自己の組合の団体交渉ではなく他組合の激励に留まること、また工場内に重要な賠償工場が存在し、前日の状況から会社側が危険を危惧して門を閉ざす「特別の事情」があったことから、会社側の入門拒否は正当である。これに対し、被告人らが係員への暴行を経て門を乗り越えて侵入した態様は著しく妥当性を欠く。したがって、たとえデモを敢行する権利があるとしても、本件侵入行為は権利の範囲を逸脱した違法なものであると評価される。
結論
被告人の行為は建造物侵入罪の構成要件に該当し、正当な権利行使として違法性が阻却されることはないため、有罪とするのが相当である。
実務上の射程
本判決は、施設管理権と労働態様・表現活動の衝突を扱う際の古典的指標となる。特に「入門を拒否し得る特別の事情」の有無と、立ち入りの「態様(暴行や不法な乗り越え)」を重視しており、答案作成上は、施設側の管理の必要性と行為側の手段の相当性を対比させて論じる際の規範として機能する。
事件番号: 昭和57(あ)347 / 裁判年月日: 昭和60年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】学校長が管理権に基づき立入りを禁止した校内に、反対運動の目的で門扉を乗り越えて侵入する行為は、動機や目的が正当であったとしても、手段の相当性を欠き正当行為として違法性が阻却されることはない。 第1 事案の概要:被告人は、いわゆる養護学校義務制に反対する運動に従事していた。その過程において、東京都足…
事件番号: 昭和25(れ)1902 / 裁判年月日: 昭和27年2月22日 / 結論: 棄却
一 生産管理として多数の威力をもつて会社の事業の管理即ち支配を排除した以上、刑法第二三四条の業務妨害が成立する。 二 経営権と労働権との対等を保障している現行の法律秩序からすれば、両者の間に労働協約による特別の定めがないかぎり、企業経営、生産行程の指揮命令は使用者側の権限に属するのであるから、同盟罹業が有効でないからと…
事件番号: 昭和27(あ)2037 / 裁判年月日: 昭和28年2月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建造物侵入罪(刑法130条前段)の成否について、特定の政治的・社会的な事情があっても、当該行為を正当化することはできず、違法性が阻却されないことを示した。 第1 事案の概要:被告人らは、特定の政治的または社会的な目的(詳細は判決文からは不明)に基づき、本件建造物への侵入行為に及んだ。被告人側は、上…