一 憲法第二八條の保障は、勤勞者以外の團体、又は個人の單なる集合に過ぎないものの行動に對してまで及ぼすものではない。(昭和二二年(れ)第三一九號昭和二四年五月一八日大法廷判決參照) 二 刑法第一三〇條に所謂建造物とは、單に家屋を指すばかりでなく、その圍繞地を包含するものと解するを相當とする。所論本件工場敷地は判示工場の附屬地として門塀を設け、外部との交通を制限して守備警備員等を置き、外來者が、みだりに出入りすることを禁止していた場所であることは記録上明らかであるから、所論敷地は同條にいわゆる人の看守する建造物と認めなければならない。 三 憲法第三七條第三項は、刑事被告人は、いかなる場合にも資格を有する辯護人を依頼することができること、及び被告人が自らこれを依頼することができないときは國でこれを附する旨を規定したものではない。そして舊刑訴法第六九條第二項は判決書に關與した檢察官の官氏名を記載すべき旨を規定しているが、公判に立會つた辯護人の氏名を記載すべき旨を規定していない。されば原判決書には、本件公判に立會つた辯護人の氏名を記載していないことは所論のとおりであるが、しかしその爲何等舊刑訴法の條規に反するところはなく、また憲法第三七條第三項に反するものでもない。そして判決書に公判に立會つた辯護人の氏名を記載しないからとて所論のように裁判の公正を疑わしめるものではない。 四 隠退藏物資の摘發については正規の機關の適正な活動を期待することができないとして、これが摘發のため人の看守する工場に多人數大舉して押寄せ法令上の根據もなく又これを業務とするものでもないのにかかはらず、看手者の意に反して工場内に侵入した場合には、住居侵入罪が成立する。 五 隠退藏物資摘發のため人の看守する工場に多人數大舉して押寄せ、法令上の根據もなく又これを業務とするものでもないのにかかわらず、看手の意に反して工場内に侵入した行爲は、刑法第三五條にいわゆる「法令又は正當の業務に因り爲したる行爲」ということはできない。 六 住居侵入の事実に法律を適用するにあたつては、刑法第一三〇条の前段、後段と区別しないで、概括的に同条を適用しても違法ではない。 七 隠退藏物資摘發のため人の看守する工場に多く數大舉して押寄せ、法令上の根據もなく又これを業務とするものでもないのにかかわらず、看守の意に反して工場内に侵入した行爲は、假に當該工場内に隠退藏物資があつたとしても、正當防衛又は緊急避難行爲と認めることはできない。
一 憲法第二八條にいわゆる「保障」は勤勞者以外の團体又は個人の單なる集合に及ぶか 二 刑法第一三〇條にいわゆる「人の看守する建造物」の意義 三 辯護人の氏名を判決書に記載することの要否 四 隠退藏物資摘發のため人の看守する工場に侵入した行爲と住居侵入罪 五 隠退藏物資摘發のため人の看守する工場に侵入した行爲と刑法第三五條 六 刑法第一三〇条を概括的に適用することの適否 七 隠退藏物資摘發のため人の看守する工場に侵入した行爲と正當防衛又は緊急避難
憲法28條,憲法37條3項,刑法130條,刑法35條,刑法36條,刑法37條,舊刑訴法69條1項
判旨
刑法130条の「建造物」には、門塀等で囲まれ外部との出入りが制限されている囲繞地が含まれ、また、隠退蔵物資の摘発目的であっても、過激な暴力主義的手段による侵入は正当行為や緊急避難として違法性を阻却しない。
問題の所在(論点)
1. 門塀や警備員によって管理されている工場敷地(囲繞地)への立ち入りが「建造物」侵入罪を構成するか。 2. 隠退蔵物資の摘発という目的がある場合、多人数での強行的な侵入行為に正当行為(35条)や緊急避難(37条)等の違法性阻却事由が認められるか。
規範
1. 刑法130条にいう「建造物」とは、単に家屋のみを指すのではなく、その附属地として門塀を設け、外部との交通を制限し、守衛を置くなどして外来者の出入りを禁止している囲繞地をも包含する。 2. 自力救済的な行為の違法性阻却については、正規の機関による摘発を待つべきであり、手段・方法が公序良俗に反しない節度ある限度を超え、多人数で看守者の意に反して過激・暴力的に侵入する行為は、正当行為(刑法35条)や正当防衛・緊急避難(36条・37条)には当たらない。
重要事実
被告人らは、工場に隠退蔵物資があると考え、その摘発を目的として多人数で大挙して工場に押し寄せた。当該工場敷地は、門塀が設けられ、守衛や警備員が置かれて外部からの無断立入りが禁止されていたが、被告人らは警備員の制止を押し切り、その意に反して工場内に侵入した。
あてはめ
1. 本件工場敷地は、門塀により外部との交通が制限され、守衛等により管理されていた。したがって、刑法130条の「建造物」に含まれると解される場所への侵入といえる。 2. 隠退蔵物資の摘発は、本来正規の機関が行うべきものであり、これへの不信感から自ら摘発に及ぶことは独善的である。被告人らは多人数で大挙して押し寄せ、看守者の制止を無視して侵入しており、その手段・方法は暴力主義的で公序良俗に反する。また、仮に物資が存在したとしても、急迫不正の侵害や現在の危難があるとはいえず、正当行為や緊急避難の要件を欠く。
結論
被告人らの行為は建造物侵入罪を構成し、その手段・方法の過激さから違法性を阻却する余地もないため、有罪とする原判決は正当である。
実務上の射程
住居侵入・建造物侵入罪における「囲繞地(いぎょうち)」の概念を確立した重要判例である。また、政治的・社会的な目的を掲げた自力救済的な実力行使が、手段の相当性を欠く場合に違法性を阻却しないという判断枠組みは、現代の労働争議や抗議活動における正当業務行為の限界を検討する際にも参照される。
事件番号: 昭和26(れ)985 / 裁判年月日: 昭和26年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】住居侵入罪(刑法130条前段)における「侵入」とは、管理者の意思に反して立ち入ることをいい、故なく会社構内に立ち入った事実は不法侵入を構成する。 第1 事案の概要:被告人は、会社構内への立入りに際し、その管理・警備を担う守衛の意思に反して立ち入った。原審の認定によれば、当該立入りには正当な理由(「…