一 原判決は前に被告人のためになされた弁護人の選任の効力は当然、その選任後同一被告人に対し起訴される一切の被告事件に及ぶものと断定したのではなく、曩に選任された弁護人の弁護権は被告人その他選任権者において特段の限定を為されない以上同一の機会に追起訴され且つ一つの事件として併合審理された被告事件の全部に及ぶものと解するを相当とすると判断したに過ぎないものであつて、原判決の見解は正当であり、これを是認することができる。従つて、原判決の判断は所論名古屋高等裁判所(昭和二五年一月二七日特報四号五一頁)(選任行為に因つて明示された事件に限る)と必ずしも相反するものではないし、また、所論大審院の判例(昭和一〇年二月一八日集第一四巻一一〇頁)は、数個の出版法新聞紙法違反事件に係り本来旧刑法の数罪倶発の例を用いないか又は刑法併合罪の規定を適用せず、従つて、併合審理した場合でも裁判の各一部に対し独立して上訴を許す(旧刑訴法第三八〇条、刑訴法第三五七条参照)案件に関する原審弁護人の上訴権の有無についての判例であるから本件に適切ではない。従つて、所論は結局刑訴法第四〇五条第三号に当らないし、また、仮りに当るものとしても同法第四一〇条第二項に従つて右判例を変更して原判決を維持するを相当と認める。 二 訴因を予備的に(すなわち当初の訴因が否定される場合の予備として)追加又は変更し得べきことは刑訴法第二五六条第五項、第三一二条により明白であり、且つ、公訴事実の同一性を害しない限度における訴因の追加(新らたな訴因を附加すること)と変更(同一訴因の態様を変更すること)とは、その法律上の効果を異にしないから、追加を変更と誤認しても判決に影響なきは勿論第一審においてした訴因の変更又は追加を第二審において更らに改めて追加又は変更する手続を執る必要はなく、また、有罪無罪は公訴事実に対しなさるべきものであるから、公訴事実が同一である以上その範囲内の追加又は変更前の訴因でこれを否定すべきものについては主文において無罪を言渡すべきではない。従つて、原判決には結局所論の違法又は不当が認められない。
一 追起訴事実に対する弁護権と弁護権の範囲に関する判例(大審院、名古屋高裁)違反の主張の適否 二 一訴因は予備的に追加又は変更し得る 三 一訴因は追加を変更と誤認しても判決に影響しない 四 一訴因は予備的追加又は変更前の訴因について無罪の言渡の要否
刑訴法30条,刑訴法405条3号,刑訴法410条2項,刑訴法256条5項,刑訴法312条,刑訴法336条,刑訴規則17条,刑訴規則18条
判旨
弁護人の選任の効力は、特段の限定がない限り、同一の機会に追起訴され且つ一つの事件として併合審理された被告事件の全部に及ぶ。また、公訴事実の同一性がある範囲内で訴因が変更された場合、旧訴因について主文で無罪を言い渡す必要はない。
問題の所在(論点)
1. 第一審の特定の事件について選任された弁護人の効力が、後に追起訴され併合審理された別個の事件にも当然に及ぶか(刑訴法30条)。2. 訴因変更があった場合、変更前の訴因について主文で無罪を言い渡すべきか(刑訴法312条、336条)。
規範
1. 弁護人の選任権者が特段の限定をしない限り、弁護権の効力は、同一の機会に追起訴され、かつ一つの事件として併合審理された被告事件の全部に及ぶ。2. 公訴事実の同一性が認められる限度での訴因変更において、変更前の訴因が否定される場合であっても、公訴事実は一体であるから、旧訴因について主文で個別に無罪を言い渡す必要はない。
重要事実
被告人に対し、当初の起訴の後に別の事実が追起訴され、これらが併合審理された。第一審判決より前に選任されていた弁護人の弁護権が、この追起訴された事件にも及ぶかが争われた。また、公訴事実の同一性の範囲内で訴因の追加・変更が行われたが、裁判所は変更前の訴因について無罪の主文を掲げなかった。
あてはめ
1. 弁護人選任の際、選任権者が対象事件を限定していないのであれば、同一の手続き内で併合審理される事件は一体として防御の対象となると解するのが相当である。2. 有罪・無罪は公訴事実に対してなされるものであり、公訴事実の同一性が維持されている限り、その中での訴因の変遷は審判対象の態様の変化に過ぎない。したがって、一部の態様(旧訴因)が否定されても、同一性のある事実全体として有罪であれば、旧訴因を主文で無罪とする論理的必然性はない。
結論
1. 特段の事情がない限り、選任の効力は追起訴・併合された事件にも及ぶ。2. 訴因変更後の有罪判決において、旧訴因に対し無罪を言い渡す必要はない。
実務上の射程
弁護権の範囲に関する実務上の慣習を肯定した。また、訴因変更がなされた場合の判決書の主文構成(単一性)を明確にしており、刑事訴訟法の起案において「訴因変更と無罪判決の要否」が問われた際の根拠となる。
事件番号: 昭和26(あ)1275 / 裁判年月日: 昭和26年10月5日 / 結論: 棄却
一 第一審第九回公判において検察官が被告人に対する昭和二四年八月一三日附及び同二五年一月一八日附の各起訴条記載の公訴事実について訂正の申立をしていること、その中には訴因の変更と認めるのを相当とする部分が存すること、これに対し裁判所が取り立てて訴因変更の許可決定を為さず、又その変更を被告人に更めて通知していないことはすべ…