一 第一審第九回公判において検察官が被告人に対する昭和二四年八月一三日附及び同二五年一月一八日附の各起訴条記載の公訴事実について訂正の申立をしていること、その中には訴因の変更と認めるのを相当とする部分が存すること、これに対し裁判所が取り立てて訴因変更の許可決定を為さず、又その変更を被告人に更めて通知していないことはすべて所論の通りである。しかし、検察官の右申立は被告人出頭の公判廷において口頭を以つて為されたものであり、又、同公判調書によると、被告人は右申立に対し何らの異議も述べず、裁判所も亦これを却下することなく、直ちに次ぎの訴訟手続に進んでいることが窺われる。かかる場合においては、裁判所が特に訴因変更の許可決定をしていなくても、その許可が為されたものと認めるのが相当であり、又、その訴因変更を更めて被告人に通知することも必要ではないと解すべきである。したがつて、第一審判決及びこれを是認した原判決には所論のような違法はない。 二 第一審で、さきに起訴された賍物牙保被告事件及び詐欺恐喝住居侵入強盗傷人傷害被告事件に併合審理された住居侵入強盗傷人被告事件及び賍物牙保同収受同故買被告事件について弁護届が存しないことは所論のとおりである。しかし、被告人が或る事件について為した弁護人選任の効力は、被告人において特段の限定を為さない以上、同一の機会に追起訴され且つ一つの事件として併合審理された事件の全部に及ぶものと解するのが相当であつて(昭和二六年(あ)第六五四号、同年六月二八日第一小法廷判決参照)、本件でも、先きに起訴せられた前記両被告事件については、被告人と連署した弁護人鈴木喜太郎、同藤原万蔵及び権逸の弁護届が提出されており、被告人において特段の限定をしたことも認められないから、同事件の弁護人たる右三名はすべて、後に起訴せられこれと併合された所論両事件についても亦被告人の為め有効に弁護を為し得たものといわなければならない。
一 訴因変更と裁判所の黙示の許可 二 被告人の在延する公判廷における口頭の訴因変更申立と被告人に対するその通知の要否 三 さきに起訴された事件の弁護人選任届の追起訴事件に対する効力
刑訴法312条,刑訴法32条,刑訴規則209条
判旨
弁護人選任の効力は、特段の限定がない限り、同一機会に追起訴され併合審理された事件の全部に及ぶ。また、公判廷での口頭による訴因変更に対し異議なく手続が進行した場合、許可決定や更なる通知がなくても適法な変更が認められる。
問題の所在(論点)
1. 追起訴され併合審理された事件について、当初の弁護人選任の効力が及ぶか(刑事訴訟法30条、弁護人依頼権の範囲)。2. 裁判所が明示的な許可決定や通知を欠いたまま訴因変更手続を進行させた場合の適法性(刑事訴訟法312条)。
規範
1. 弁護人選任の効力範囲:被告人が特定の事件につき行った弁護人選任は、特段の限定をしない限り、同一の機会に追起訴され、かつ一つの事件として併合審理された事件の全部に及ぶ。2. 訴因変更手続:検察官が公判廷で口頭により訴因変更の申立を行い、被告人側が異議を述べず、裁判所がこれを却下せず訴訟手続を進行させた場合、明示的な許可決定や改めての通知がなくても、訴因変更の許可があったものと認めるのが相当である。
重要事実
被告人は、当初の起訴事実につき弁護人を選任していたが、その後、別の住居侵入強盗傷人事件等が追起訴され、併合審理された。この追起訴分については別途の弁護届は提出されていなかったが、選任済みの弁護士らが弁護人として活動していた。また、第一審の公判において、検察官が口頭で訴因変更に相当する訂正を申し立てた際、裁判所は明示的な許可決定をせず、被告人への通知も行わなかったが、被告人側は異議を述べず手続が進行した。
あてはめ
1. 弁護人の効力について、被告人は選任に際して特段の限定を付しておらず、追起訴事件は同一機会に併合審理されている。実際、選任済みの弁護人らが追起訴分についても弁護活動を行っていることから、選任の効力は追起訴分にも及んでいる。2. 訴因変更について、検察官の申立は被告人出頭の公判廷で口頭でなされており、被告人側も何ら異議を述べず、裁判所も黙示にこれを是認して手続を進めている。このような状況下では、実質的に訴因変更の許可があったと同視でき、改めての通知も不要である。
結論
1. 追起訴事件についても弁護人の選任は有効であり、弁護人なしで審理した違法はない。2. 訴因変更手続に違法はなく、原判決は正当である。
実務上の射程
併合審理時における弁護権の保障範囲に関するリーディングケースである。答案上では、弁護人の選任単位が原則として「被告事件」ごとであることを踏まえつつ、手続の経済や被告人の意思に反しない範囲での「効力の拡張」を認める際の規範として活用できる。訴因変更については、被告人の防御権が実質的に害されていない状況での手続的瑕疵の治癒を認める論理として参照可能。
事件番号: 昭和26(あ)654 / 裁判年月日: 昭和26年6月28日 / 結論: 棄却
一 原判決は前に被告人のためになされた弁護人の選任の効力は当然、その選任後同一被告人に対し起訴される一切の被告事件に及ぶものと断定したのではなく、曩に選任された弁護人の弁護権は被告人その他選任権者において特段の限定を為されない以上同一の機会に追起訴され且つ一つの事件として併合審理された被告事件の全部に及ぶものと解するを…