裁判所が検察官の申請により鑑定人を取り調ぶべき旨の証拠決定をしたのにかかわらず、証拠決定を施行せず、またその取消をしないで弁論を終結するに当つて、申請当事者たる検察官がこれにつき異議を述べなかつた場合には、特段の事情がないかぎり検察官はその申請にかかる鑑定の施行を維持する意思がなかつたものと解するのを相当とする。
裁判所が当事者の申請により証拠決定をしながら不施行のまま結審した場合、申請当事者は証拠決定の施行を維持する意思がないものと解すべきか。
刑訴法298条,刑訴法309条,刑訴規則190条
判旨
裁判所が証拠決定をした証拠を取り調べず、その取消決定も行わずに結審した措置は一応の手続違反であるが、申請当事者が異議を述べず、被告人の不利益や判決への影響が認められない場合には、適法な判決として維持される。
問題の所在(論点)
裁判所が証拠決定をした証拠につき、正式な取消決定を経ずに取り調べを行わず結審した手続的措置は、刑事訴訟法上の適法な手続に違反し、判決に影響を及ぼすべき違法(刑訴法379条等)となるか。
規範
裁判所が証拠調をなす旨の決定をした以上、これを施行しないときは当該決定を取り消すべきである。ただし、証拠決定の取消を欠いたまま結審した場合であっても、①申請当事者が証拠調未施行に異議を述べず証拠調請求を維持する意思がなかったと解されること、②被告人に不利益をもたらす特段の事情がないこと、③事案の罪質等に照らし判決に影響を及ぼさないことが明らかであることの要件を満たすときは、実質的な違法とはならない。
重要事実
第一審において検察官が鑑定を請求し、裁判所がこれを取り調べる旨の証拠決定をした。しかし、裁判所は当該決定を取り消すことなく、鑑定未施行のまま結審し判決を宣告した。なお、結審に際して裁判長が証拠の証明力を争う機会を与えたところ、検察官・被告人・弁護人のいずれからも異議や追加の証拠請求はなされなかった。
事件番号: 昭和28(あ)4831 / 裁判年月日: 昭和30年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の一人に対する有罪判決が、証拠能力のない証拠を事実認定に用いた訴訟手続の法令違反により破棄された場合であっても、その違法が当然に他の共同被告人の事実認定に影響を及ぼし、上告理由となるものではない。 第1 事案の概要:本件において、被告人とともに審理を受けていた相被告人の有罪部分が、原審(控訴…
あてはめ
第一審の措置は取消決定を欠く点で形式的には手続違反の誹を免れない。しかし、申請者である検察官が結審時に異議を述べなかった以上、鑑定維持の意思はなかったものと解される。また、検察官は公訴維持のために申請したのであり、その未施行が直ちに被告人の不利益になるとは言えない。本件の罪質に照らしても、右鑑定の欠如が事実認定を左右し判決に影響を及ぼさないことは明らかである。
結論
本件の証拠決定未施行および未取消の瑕疵は、被告人の権利を不当に制限するものではなく、判決に影響を及ぼすべき違法とはいえないため、上告は棄却される。
実務上の射程
証拠決定の取消漏れという手続的瑕疵の治癒に関する判断枠組みとして活用できる。特に、当事者の「黙示の撤回(異議なし)」と「実質的な不利益の不在」を重視して結論を導く際の参考となる。また、同判決は証拠の標目(335条1項)の簡略記載や、特信状況(321条1項2号)の合理的な裁量についても触れており、判決書の形式的適法性を争う論点に有効である。
事件番号: 昭和29(あ)3383 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審で適法になされた追起訴、公訴取消し、訴因変更等を経て判決が下された場合、被告人側が異議を述べず手続が進んだ以上、上告審においてこれを訴訟法違反と主張することはできない。 第1 事案の概要:被告人は詐欺及び同未遂等の罪で起訴された。第一審の手続において、検察官による追起訴や訴因・罰条の追加、変…
事件番号: 昭和35(あ)2194 / 裁判年月日: 昭和36年5月26日 / 結論: 棄却
当事者から終結した弁論の再開請求がなされたときは、裁判所は、その請求を容れて再開するか、又はその必要なしと認めて却下するか、いずれかの決定を与えなければならないものと解するを相当する。
事件番号: 昭和26(あ)5317 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公訴事実に示された偽造の事実を、原判決が偽造教唆の事実として認定・判示することは、判決に影響を及ぼすような判断遺脱には当たらない。 第1 事案の概要:第一審判決の第四において「偽造」に相当するとされていた公訴事実につき、原判決がこれに基づき「偽造教唆」と認定判示して判断を示した事案である。上告人は…