一 論旨は更に進んで、以上の如き被告人等の行為(スクラムを組み労働歌を高唱して気勢を挙げた行為)が暴力でないとすれば威力であるから、公務員執行妨害罪が成立しないとしても業務妨害罪が成立すると主張するのであるか、業務妨害罪にいわゆる業務の中には、公務員の職務は含まれないものと解するを相当とするから、公務員の公務執行に対し、かりに暴行又は脅迫に達しない程度の威力を用いたからといつて業務妨害罪が成立すると解することはできない。 二 会社の従業員等(労働組合員)が、会社との争議中、会社側の意向を全然無視し、強いて会社の建造物に立ち入つてこれを占拠し、他の従業員に就業を阻止し、あるいは会社所有の物品をほしいままに管理処分するが如き一連の行為をした場合にはかりに、原判決認定のごとき会社側に非難に値する仕打があり、従業員側にむしろ同情すべき事情があつたとしても、かかる行為を緊急止むを得ない争議行為として適法視することはできない。 三 争議中、会社と組合との間に妥協成立し、双方の合意によつて会社の従業員たる組合員全員が適法に解雇され、組合も解散したときはこれにより争議は終了する。 四 右の場合、組合の少数反対派の者が会社と飽く迄も抗争せんとして行動しても、それは争議行為とはいえない。 五 会社業務の妨害の現行犯として検挙に向つた警察官等に対し、労働者等がスクラムを組み労働歌を高唱して気勢を挙げたとしてもそれだけでは必ずしも公務執行妨害罪は成立しない。 六 暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項の規定は、憲法第二八条、第九八条に違反しない。
一 公務員に対する威力の誇示と業務妨害罪の成否 二 生産管理の違法性 三 社会と組合との間に争議について妥協成立し双方の合意によつて全員解雇され組合が解散した場合と争議の終了 四 右の場合会社となお抗争を継続する組合の少数反対派の行動は争議行為といえるか 五 検挙に向つた警察官等に対しスクラムを組み労働歌を高唱する労働者等の行為と公務執行妨害の成否 六 暴力行為を等処罰に関する法律第一条第一項の合憲性
刑法234条,刑法95条1項,旧刑訴法1条,憲法28条,憲法98条,暴力行為処罰に関する法律1条1項
判旨
会社の意思に反する建造物占拠や物品の処分を伴う生産管理は、適法な争議行為として認められない。また、刑法233条及び234条の「業務」には公務員の職務は含まれず、公務に対する妨害は公務執行妨害罪の成否のみが問題となる。
問題の所在(論点)
1.会社の意思に反する建造物占拠や物品処分を伴う生産管理が、正当な争議行為として違法性を阻却されるか。 2.「業務」の内容に公務員の職務が含まれるか(威力を用いた公務妨害に業務妨害罪が適用されるか)。
規範
事件番号: 昭和27(れ)79 / 裁判年月日: 昭和27年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による生産管理は、争議の一手段としてなされたものであっても、労働関係における争議行為として容認し得ない。また、労働関係の当事者たる地位を失った者による行為は、憲法28条の保障の対象外である。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合の争議の一手段として、会社側の意に反して工場等の施設を占拠・…
1.生産管理の正当性:使用者側の意向を無視し、建造物を占拠して他の従業員の就業を阻止し、または会社所有の物品をほしいままに管理処分する一連の行為は、適法な争議行為としての域を超え、刑事責任を免れない。 2.業務妨害罪の客体:業務妨害罪にいう「業務」には、公務員の職務は含まれない。公務執行に対して暴行・脅迫に至らない程度の威力を用いたとしても、業務妨害罪は成立しない。
重要事実
組合と会社の間で争議に関する妥協が成立し、組合員全員の解雇と組合解散が合意された。しかし、これに反対する被告人ら少数派は、解雇の無効を主張して工場に立ち入り、建造物を占拠して会社物品を管理処分する等の「生産管理」を継続した。また、警察官による検挙に際し、スクラムを組み労働歌を高唱して気勢を上げた。原審は、これら一連の行為を正当な争議行為として無罪としたほか、公務に対する威力行使について業務妨害罪の成立を否定した。
あてはめ
1.被告人らは組合解散により従業員の身分を喪失しており、もはや適法な争議行為の主体たり得ない。また、その態様も会社の建造物占拠や物品のほしいままな処分を伴うものであり、企業の所有権・管理権を根本から侵害するものであるから、正当な争議行為とは認められず、刑法35条による違法性阻却は認められない。 2.刑法上の業務妨害罪は私的な業務を保護対象とするものであり、強制力を伴う公務は公務執行妨害罪等により別途保護されている。したがって、暴行・脅迫に至らない程度の威力をもって公務を妨害したとしても、業務妨害罪として処罰することはできない。
結論
1.生産管理行為については、正当な争議行為として認められず、建造物侵入罪や業務妨害罪等が成立し得る。 2.公務は業務妨害罪の「業務」に含まれないため、同罪は成立しない。
実務上の射程
生産管理の違法性を論じる際のリーディングケースであるとともに、刑法各論における「業務」の概念から公務を除外する判例として、答案上極めて重要である。威力を用いた公務妨害が不可罰となる隙間(暴行・脅迫に至らない場合)を指摘する文脈で使用する。
事件番号: 昭和28(あ)56 / 裁判年月日: 昭和31年10月24日 / 結論: その他
某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一…
事件番号: 昭和25(れ)1902 / 裁判年月日: 昭和27年2月22日 / 結論: 棄却
一 生産管理として多数の威力をもつて会社の事業の管理即ち支配を排除した以上、刑法第二三四条の業務妨害が成立する。 二 経営権と労働権との対等を保障している現行の法律秩序からすれば、両者の間に労働協約による特別の定めがないかぎり、企業経営、生産行程の指揮命令は使用者側の権限に属するのであるから、同盟罹業が有効でないからと…
事件番号: 昭和52(あ)583 / 裁判年月日: 昭和53年11月15日 / 結論: 棄却
一 バス会社がストライキに参加しない従業員によつて操業を継続するために必要とした本件車両の分散及び保全看守は、それが操業を阻止する手段として組合側の計画していた車両の確保に対する対抗措置として行われたものであつても、威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたる。 二 バス会社のストライキに際し、多数人による暴力を伴…
事件番号: 昭和25(あ)481 / 裁判年月日: 昭和27年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による団体交渉等の行為であっても、正当な目的の限度を逸脱した暴力行為は、労働組合法1条2項の趣旨に照らし、憲法28条の保障を受ける正当な行為とは認められない。したがって、かかる行為に対して暴力行為等処罰に関する法律を適用することは憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合員ま…