一 バス会社がストライキに参加しない従業員によつて操業を継続するために必要とした本件車両の分散及び保全看守は、それが操業を阻止する手段として組合側の計画していた車両の確保に対する対抗措置として行われたものであつても、威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたる。 二 バス会社のストライキに際し、多数人による暴力を伴う威力を用いて会社が回送中又は路上に駐車中のバスを奪つて組合側の支配下に置きあるいは多数の威力を示して会社が取引先の整備工場又は系列下の自動車学校に預託中のバスを搬出しようとして建造物に侵入した本件車両確保行為は、判示のような諸般の事情に照らし法秩序全体の見地からみるとき、威力業務妨害罪又は建造物侵入罪の違法性に欠けるところはない。
一 威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたるとされた事例 二 バス会社のストライキに際し組合側の争議手段として行われたいわゆる車両確保行為が威力業務妨害罪又は建造物侵入罪の違法性に欠けるところがないとされた事例
刑法35条,刑法130条,刑法234条,労働関係調整法7条,労働組合法1条
判旨
使用者はストライキ中であっても、操業を継続するために必要な対抗措置をとることができ、その業務は威力業務妨害罪の保護対象となる。これに対し、多数人の威力を用いて会社の車両を実力で奪取・管理する行為は、法秩序全体の見地から正当な争議行為として許容されず、違法性が阻却されない。
問題の所在(論点)
1. 組合の操業阻止を免れるために使用者が行う車両分散・保管業務が、威力業務妨害罪の保護対象となるか。 2. 組合員による実力での車両確保行為が、正当な争議行為として刑法上の違法性を阻却されるか。
規範
1. 使用者は正当な争議行為による業務阻害を受忍すべきだが、スト中も業務遂行自体を停止する義務はなく、操業継続のための対抗措置をとることができる。当該対抗措置としての業務も威力業務妨害罪(刑法234条)により保護される。 2. 争議行為が刑法上の犯罪構成要件に該当する場合、違法性阻却の成否は、行為の動機・目的、態様、周囲の客観的状況等を総合考慮し、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かにより判定する。
事件番号: 昭和52(あ)469 / 裁判年月日: 昭和53年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】使用者はストライキ期間中も操業を継続する自由を有し、そのための対抗措置は威力業務妨害罪による保護対象となる。一方、争議行為としての操業阻止行為は、その動機・態様・周囲の状況等を総合考慮し、法秩序全体の見地から許容される範囲を超えれば、刑法上の違法性を阻却されない。 第1 事案の概要:旅客運送会社A…
重要事実
旅客運送会社Aの労働組合がストライキを予定した際、会社側は非組合員による操業を維持するため、事前にバス車両を車庫外に分散・保管した。これに対し、組合員である被告人らは、回送中や路上に停車中のバスを一方的に奪って組合の支配下に置き、またバス預託先の建造物に看守者の意思に反して侵入した。この際、被告人らは多数人で暴力を伴う威力を用いた。
あてはめ
1. 会社の車両分散等の行為は、非組合員による操業継続という本来の運送事業を維持するために必要な業務であり、対抗措置であることをもって保護対象から外れることはない。 2. 被告人らの行為は、生産手段である車両への会社の支配管理権を侵害するものであり、多数人の暴力・威力を用いる態様は著しく不相当である。また、会社寄りの第二組合の存在により争議の実効性が減殺されていたとしても、それは争議突入に際し受容すべき事柄であり、実力行使を正当化する理由にはならない。したがって、法秩序全体の見地から許容されない。
結論
1. 使用者の対抗措置としての業務も保護されるべき「業務」に該当する。 2. 本件車両確保行為は威力業務妨害罪及び建造物侵入罪の違法性を阻却せず、有罪とする原判断は相当である。
実務上の射程
労働刑法の重要判例であり、争議行為の正当性(特に態様の相当性)が問題となる場面で活用する。使用者の「対抗措置」も刑法的保護の対象となる点、および争議の実効性が低下している状況下であっても、生産手段に対する支配権を実力で奪取する行為は正当化されにくいという準則を示す。
事件番号: 昭和33(あ)44 / 裁判年月日: 昭和33年12月25日 / 結論: 破棄差戻
電力会社変電所におけるA労働組合による停電ストライキの争議行為に対抗するため、会社側が派遣した職員二名が配電盤前に立ち配電盤のオイルスイツチのハンドルを握つていたのに対し、同労働組合支部執行委員たる被告人において、隙を見てそのハンドルの先を掴んで引きしやくつて同スイツチを切り、会社側が同スイツチを入れるや再び右配電盤前…
事件番号: 昭和41(あ)1510 / 裁判年月日: 昭和43年3月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公共企業体等労働関係法17条1項に違反してなされた争議行為であっても、労働組合法1条2項の適用は排除されないが、暴力の行使を伴う行為は正当性の限界を越えるため刑事免責の対象とならない。 第1 事案の概要:被告人らは、公共企業体等労働関係法17条1項の規定に違反して争議行為を行った。その際、被告人ら…
事件番号: 昭和37(あ)426 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 棄却
刑法第二三四条の「威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解する相当とし、かつ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきである(昭和二五年(れ)第一八六四…
事件番号: 昭和61(あ)1311 / 裁判年月日: 平成3年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為等の労働組合活動が正当性を有し違法性を欠くというためには、その動機や目的のいかんにかかわらず、態様が社会通念上許容される限度を超えないものでなければならない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合活動の一環として何らかの行為(具体的な実行行為の内容は判決文からは不明)に及んだが、その態様が…